聞く力 心をひらく35のヒント

聞く力―心をひらく35のヒント (文春新書)

インタビューが苦手な人が読むべき本

改めて紹介するまでもないほど爆発的にヒットした阿川佐和子の『聞く力』。本書が信頼できるのは、著者本人が実はインタビューが苦手だからである。阿川佐和子と言えば、これまで週刊文春の「阿川佐和子のあの人に会いたい」で900回以上もインタビューを行い、「TVタックル」ではアクの強い政治家や評論家を相手に立ち回るインタビューのプロのように見えるが、実はインタビューがヘタだと言われ、相手の話をどうやって引き出すのかに悩み、裏側では難度もトライアル&エラーを繰り返してきた。本書ではそうしたプロセスも語られていて、インタビューが苦手な人が聞きたいところに手が届くエッセンスがちりばめられている。

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Interview designed by Sarah Abraham from the Noun Project

アタリマエが忘れられやすい

この本からの学びで1番大きかったことは、まず相手の話を楽しもうという当たり前のことだ。もちろん、楽しければいいわけではなく、インタビューの目的はどこかで達成しなければいけない。ようやくアポイントがとれた。時間は限られている。確認したいことも盛りだくさん。そうなると、聞く内容を整理して、抜け漏れのないよう、それに沿って話をコントロールしたくなる。しかし、ここを忘れて目的だけ達成しようと思っても、物事はうまく進まない。

仕事のインタビュー、あるいは堅苦しい場面においては、こうした当然のやりとりが、とかく敬遠されるケースがあります。合う目的がきっちり決まっていると、脱線することを恐れ、普通の会話ができなくなってしまうのです。

相手の興味・関心はどこにあるのか。今日のようすはどうか。お話をする相手として、しっかりとアタリマエの会話をすることで会話の糸口が見えてくる。まずは、相手と軽い挨拶の会話をし、相手の話しやすい話題でエンジンをかけていく。

 

こわがらずに相手の話を楽しむ

しかも、質問をつぶしくだけでは、何となく表面的な話しかできていなかったということが多い。ひととおりロジカルに、時系列にきちんと聞けたはずなのに、何がポイントだったのかがぼんやりしている。

これはまさに、「段取りだけにとらわれて、話の内容に心が向いていない」下手なインタビューの典型です。ときどき、自分で質問しておきながら、心のなかで「あー、いかんいかん。段取りをこなしているぞ」と思うことがあります。そういう場合は、気を引き締めて、時系列に質問しながらも、どこかに面白いものが転がっていないかを吟味するのです。

でも、僕も含めてインタビューが苦手な人はこう思う。そうは言ってもどうしても聞かないと!著者も同じジレンマを感じながらも、その場の会話を楽しむことに糸口があることに気づいていく。

まず、「脱線した話」によーく耳を傾けて、じっくり聞いて、とことん楽しむ。なぜなら、その話は思いも寄らぬ面白い話に発展するかもしれないからです。発展しなさそうだとわかったら、それらのなかに、自分の本来聞きたかったテーマに関連する言葉が、なにか一つぐらい落ちていないかと必死に探すのです。いや、必ず落ちているはずです。

 

それから自分の話を近づけていく

この「必ず落ちている」という言葉が印象的だ。相手の思いに耳を傾けていれば、話の直接的な内容は自分の聞きたいことと関係なくても、興味・関心のレベルに抽象度を上げて聞いてみると、どこかで重なっているものだ。そうやって、当初の聞きたかったこととちょうど話題が重なったときに、軌道修正すればいい。仮に重なりが見えない時も、相手の思いを汲んで、でも実はこう思うんだけどと切り出せば、相手にもこちらの思いが伝わりやすく、お互いの思いをつなげる方向に話が向くものだ。

その重なりを見つけるために、聞く側は興味・関心のテーマを用意しておくことが大切だ。阿川流は、「質問の柱は三本」だという。

その人の来し方や考え方や、人生の転換期や人間関係などを調べ、(中略)大ざっぱな疑問を抱き、その結果、「デビュー前の放浪時代」と「大声の秘密」と「おばあちゃん」という三つのテーマに絞ります。

ここでのポイントは「大ざっぱ」だと思う。こまかく質問をブレイクダウンしておくことはもちろん大切だが、会話の単位としては細かい。こちらの興味・関心を広めに用意しておくことで、自然とお互いの会話を重ねることができる。

場数を踏んできた彼女だからこそ語れるインタビューの勘所には、読んでいた何度も頷かされた。



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