わが経営を語る

わが経営を語る (PHP文庫)

あなたの会社の社長は語れるか

自転車屋の丁稚奉公に始まり、ソケットでの成功を経て、数々の苦難を乗り越え、一代で日本を代表する松下電器(現パナソニック)を築いた経営者松下幸之助。本書は、そんな彼が経営者として指揮を執っていた戦争直後から昭和30年代にかけて主に社内向けに行った方針演説や訓示をまとめたものである。

本書に収録されたものだけでも100を超えているから、おそらく彼は事あるごとに、幹部や新入社員、販売店オーナーなどに向けて熱弁をふるっていたに違いない。最近で言えば、楽天の三木谷社長が朝会で毎日社内にメッセージを発信しているのが有名だが、よく考えてみると、毎日のようにメッセージを発信し続けるというのは相当労力が必要だ。

反対に言えば、それだけ語れる情熱と、観察力や豊富な引き出しを持っている証左でもある。経営者としての資質は、こういうところに表れるのではないだろうか。あなたの会社を引っ張る社長は、自分の事業について語れているだろうか。

 

強い経営は“ナラティブ

松下幸之助の語りは、どこか心に残り、人の心を動かす力を持っている。ひとつひとつの演説の中に、それぞれ起業論やビジョン・ミッション論や意思決定論、イノベーション論、アライアンス論、信用コスト論など、昭和前半の時点で既に現代経営学に通ずる鋭い洞察が散りばめられていて、それ自体有益なのだが、そのようにテーマ別に還元できない“すごさ”のようなものを感じるのは何だろうか。

おそらく、松下幸之助の最大の強みであり魅力は、経営論が彼の体に根づいていて、決してパーツでなく、統合的に物事を考える視座がすごさを感じさせるのだと思う。

すべての点で、いつも正しい価値判断ができればいいなァということだけはわかるのです。私どもはお互いにこうした努力をし、研究をし、そして少なくとも松下電器の社員として、価値判断のできる能力を、逐次、高めていきたいと思うのです。

僕はこの境地を、松下幸之助が語りかけによって人を動かしてきたことになぞらえて、ナラティブ(something that is told as a story)な経営論と呼んでいる。

 

経営は飽くまで王道

以上のように、松下幸之助が教える経営者として重要なことは、僕らがバラバラに学ぶ経営論のパーツを統合し、自らの血肉と言えるまで語りかけ続けるということにありそうだ。

経営のコツはこうだ、この点を自分は考えることにより、知ったことによって、大いに仕事ができる、というものです。そういう一つの安心感を得ると、それが無限大の力になって、飛躍的な成果をあげることにも結びついてくると思うのです。

このナラティブな経営の力が、社員を鼓舞し、関係者から賛同を得る競争優位の源泉になる。だからこそ、個々の経営論のレベルでは、奇を衒って人と違う特別なことはする必要などなく、松下幸之助はあくまで商売の王道から外れないことを常に弁えているのが印象的だ。

私は、成功というものは坦々たる大道を歩むがごとくたやすいものだと思っています。



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