悪女について

悪女について (新潮文庫 (あ-5-19))

27人の証言で描かれる女性の物語

貧しい八百屋で育ち、後に宝石屋をはじめとする数々の事業を成功させた女実業家、富野小路公子。

戦後まもなく、女性が徐々に社会に出て働きだしたばかりの時代で、彼女は女性たちの憧れの的であり、

反面、これまでの典型的な女性と違う人種であることもあって、妬みの対象でもあった。

そんな彼女は、栄華の絶頂にありながら、ある日、自殺とも他殺ともつかない謎の死を遂げる。

実はこの女性、富野小路公子は、物語の中では27人の関係者の証言で描かれるのみで、

彼女自身は物語に一切登場しないのがこの小説の面白いところだ。

物語は、ある小説家が彼女の人物像と死の真相を尋ね、公子を知る人々にインタビューする体で進む。

断片的に浮かび上がる華麗な謎の美女、公子は実態のつかめない不思議な魅力がある。

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十人十色の公子像

公子について、こんな証言がある。

苦学して開業した宝石業やクラブ経営で成功したやり手の経営者、

結婚詐欺を繰り返しながら、女手ひとつで2人の息子を育てあげた母。

聞けば聞くほど、公子の別の一面が現れ、彼女の実像になかなか辿り着けない不思議な感覚になる。

また、公子についての評価も十人十色だ。

ある人は、公子は詐欺師であり、自分たちはまんまと騙されたと言う。

一方で、公子の蠱惑的な魅力に取り付かれ、恍惚の表情を浮かべて公子を思い出す者も、

清廉潔白で清楚なお嬢様としての公子を思い浮かべる者もいる。

さて、本当の公子はどんな人物だったのだろうか。

いずれにせよ、騙されてしまうのが頷けるほど魅力ある不思議な女性だったのは間違いない。

 

愛さずにはいられない

なぜ彼女は華麗に周りの人々を惑わせ、心を絡めとるほどに魅力的だったのか。

騙されたという証言者でさえも、実は公子のことを滔々と語らずにはいられないのである。

「まああ」という口癖に象徴される、公子持ち前のおっとりした雰囲気や、

華族然とした言葉遣い・立ち振る舞いというキャラクターは、

確かに彼女の魅力のひとつを形成した要素だと思う。

ただ、彼女がいくつものキャラクターを演じなければならなかったことを考えると、

弱い彼女なりの生きる術という強かさが彼女の魅力だったのではないかとも思う。

作りもののの仮面であるはずなのに、どのキャラクターもそれぞれ公子本人が溢れている。

家族との関係もギクシャクとしてうまくいかない、子供の養育にも不器用。

そんな不完全な公子だからこそ、かえって魅力を感じ、愛さずにはいられなかったのだろうと思う。

あなたがイメージする公子はどんな女性だろうか。



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