アフォーダンス 新しい認知の理論

アフォーダンス-新しい認知の理論 (岩波科学ライブラリー (12))

デカルト的「因果」論を超えるアプローチ

アフォーダンス理論は、現代のロボティクスを理解する上でもっとも重要なキーワードだ。本書では、第一人者ギブソンがアフォーダンス理論を着想する鍵になったゲシュタルト心理学から、ギブソンの後継者たち(ギブソニアン)が発展させた最新の理論までをストーリー仕立てに解説している。

アフォーダンス理論は一見すると難しそうだが、コンセプトは非常にシンプルだ。たとえば、暑い夏の日、あなたはうちわを持っていなくても下敷きがあれば代わりに使えるだろう。しかし、ロボットの場合、事前にプログラミングされていないと、その考えにたどり着くことはない。

アフォーダンス理論は、この人間に自然に備わった即応能力のもとを突き止めようとする理論だ。この理論のキモは、「因果」ではなく「共鳴・同調」のメカニズムにある。線形な因果関係にはない、うちわとして使えるという情報(=アフォーダンス)を下敷きから読み取る仕組みを、人間の五感の仕組みから読み解いていくギブソンのチャレンジは、専門家のみならず誰もがひきこまれる面白さをもっている。

人間はあることを行うときに、それにともなって起こる環境の変化がいま行っている行為に関係しているのかどうかなどという問題ではけっして悩まない。乳児でさえ、行為に関連しないことは意識せずに「無視」している。「フレーム問題」に悩まないという性質は、人間の知性の本質的な特徴の一つのようである。「フレーム問題」にとらわれない人間の知性の「設計原理」とはどのようなものなのか。どのようにすれば「フレーム問題」に悩まないロボットを設計できるのか。

icon_10452 Robot designed by William Hollowell from the Noun Project

複合的な知覚システム

アフォーダンス理論の面白いところは、環境の側に「~できる」という情報が備わっているとしたことだ。例えば、イスなら「座れる」、ボタンなら「押せる」ことを感覚的に認知できる何かがあると考えたわけだ。では、僕らはこのアフォーダンスをどうやって読み取っているのだろうか。ギブソンが発見したのは、「点ではなく面」、「刺激ではなく包囲」、「形ではなく動き」の3つだ。

点ではなく面

デカルト的因果論は、末梢神経が受け取る刺激と反応の1対1の関係が大前提だ。もちろん、多くの科学的仕組みがこのフレームワークで解明されてきたことは言うまでもない。しかし、ギブソンが出会ったゲシュタルト心理学は、この枠組みでは説明できない現象を指摘した。

例えば、理髪店にある3色の螺旋看板は、本来の刺激通りであれば「回転運動」であるところ、線の動きをつなげて「上昇運動」と見てしまうのは誰もがイメージできるのではないだろうか。ここから、人間は環境を物理現象としてそのまま受け取っているわけではなく、1つのゲシュタルト(まとまりのある構造)として、「全体的に」知覚していることが分かってくる。

刺激ではなく包囲

そう考えていくと、通路の狭さを見分けて肩を回すか回さないかを感覚的に見分けられたりと、日々の生活の中で、絶えずその場の“雰囲気”を読み取って対応しているシーンは実に多い。ギブソンは、そうした人間の判断要因として、はじめは面のレイアウト(地理的な傾き)、そして、研究を進めるうちにその背景に光の包囲があることに気づいていく。

観察者に直接刺激を与えている光以外の、身の回りに充満している光。視点が動くことでこの光の角度が変わり、そこから観察者と周りとの距離が測られる。このように発想を転換することで、人間の知覚の不思議に近づいたのである。

形ではなく動き

ギブソンはさらに、ものの形までも放棄するというラディカルな考えに進んでいく。例えば人間の関節にライトをつけて、暗闇でそのライトの動きだけを治験者に見てもらう。すると、ライトが停止している時はそれが何か判別できないが、動き出した途端、それが人間であり、何をしているか、さらに年齢、性別、調子なども予測することができる。

これを受け、ギブソンは「移動」の中から「不変項」(インバリアント)を読み取ることで対象の状態を感覚的につかむ認知の仕組みを導いていく。

 

「折り合いをつける」という発想

以上のように、人間の知覚の仕組みは非線形な、不思議な仕組みを持っている。そして、このようなダイナミックな仕組みを、環境と共鳴・同調しながら柔軟にコントロールしているというのが、ロボットにはない、人間ならではの知覚システムのメカニズムのひみつなのである。

最新のロボティクスは、このような仕組みを取り入れ、環境との交渉の結果をいったん受け入れて、事後的に折り合いをつける機構を取り入れることで、人間の知覚システムに近い環境即応的な柔軟性を実現しているというから面白い。



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