「五感」の時代 視・聴・嗅・味・触の消費社会学

五感の時代

2000人の調査から分かった新しい消費

時代時代の消費者像を様々な角度から解き明かす調査に定評のある、博報堂生活研究所の1冊。

同研究所の出版物は、消費者感覚の移り変わりを鮮やかに切り取って見せてくれるだけでなく、

マーケティングのプロとして、消費者の声をどう分析し、どうインプリケーションを抽出するかという

調査のプロセスそのものも参考になるため、僕は古いものから蔵書として保存している。

本書がテーマにする消費者像は、「ピン」感覚という新しい購買動機がキーワードだ。

「ピン」感覚とは、「良い悪い」「好ききらい」以前の、五感が捉えた直感的な感覚のことだ。

実は年代や性別によって異なる「これ、なんとなくいい」という感覚を、本書では2,000人の

調査データをもとに描き出していく。

 

なぜ今、「ピン」感覚なのか?

経済の成熟や国際化・ネット化の進展により、情報量は増加したものの似たようなものばかりが

増える中、より感覚的な消費の取捨選択が行われるようになってきたこと。

また、五感に働きかけるマーケティングの手法が進化し、一方で受け手である消費者にも

忙しい生活の中で五感を大切にする傾向から、消費者が「ピン」体験をする機会が増えてきたこと。

このような要因の中で、今の消費者は五感に対する感度が高くなっているという。

実際、同研究所の調査では、視・聴・嗅・味・触のうち、3つ以上に「鋭い方だ」と答えた

「黒帯」の人は、「ピン」を大切にして購買する傾向があることが分かった。

また、1~2つに「鋭い方だ」と答えた「白帯」や、五感の鈍い「帯なし」も五感を鍛えたいと

答えており、「ピン」の重要性の高まりが裏付けられている。

 

「ピン」感覚を科学する

「ピン」感覚は、「良し悪し」や「好ききらい」と本当に違うのだろうか。

個人的には、「ピン」は「良し悪し」、「好ききらい」の変形に過ぎないのではないかという疑問が残った。

例えば、「同じピンとくるものでも、【スキピン】感触と【キライピン】感触に明確に分化している」とある。

当たり前だが、結局は「良い/悪い」ピン、「好きな/嫌いな」ピンがあることに変わりないわけだ。

ただ、同じ「良し悪し」「好ききらい」でも、根拠情報にもとづく評価ではなく、

経験や習慣から何も考えずとも湧き上がってくる評価だということがミソだと思う。

「何となくいい感じ」は、商品そのものの質ではなく、商品を取り巻く環境を含めたトータルな

インターフェース(環境デザイン)によって生まれることに気づくことが重要だ。

ここに着目すると、2,000人のデータに基づいて導き出された、年代や性別ごとの「ピン」感覚が

なぜ違うのかということが、はっきりしてくる。

重要なのは、消費者がどのような「ピン」を経験してきたかという文脈に思いを馳せることだと思う。

「良い悪い」という理性を基準に人々が「あつまる」時代だった七〇年代。
そして、「好き嫌い」という感性を基準に人々が「ばらける」八〇年代をくぐりぬけ、
再び「ピン」を基準に人々が「つながる」時代へ。



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