99.9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方

99・9%は仮説 思いこみで判断しないための考え方 (光文社新書)

世の中は仮説でできている

本書は、科学研究における一般常識である“99.9%は仮説”という考え方(反証可能性命題と言う)を、

豊富な具体例を交えて門外漢にも非常に分かりやすく教えてくれる科学入門書だ。

読者は、「飛行機はなぜ飛ぶのか?実はよくわかっていない」という驚きの事実にはじまり、

コペルニクス的転回や相対性理論などの科学理論が、どのように生まれてきたのかを追体験することで、

世の中の事象は完全に証明されてなどなく、僕らはその前提で世の中の事象を理解し、

時に疑ってかかる必要があることを実感を持って学ぶことができる。

これから科学を学ぶ中高生には、物事の前提知識として是非読んでもらいたい1冊である。

また、反証可能性命題については、本家のカール・ポパーに代表されるより難解な議論があるのだが、

個人的にはそうした議論への手引きとなる解説書として、非常に重宝した。

 

反証可能性命題入門

詳しい議論はポパーの紹介に譲るが、世の中は仮説でできていることを簡単に確認しておこう。

例えば、「現在の航空機の構造や飛行技術があれば飛行機は飛べる」と証明することは可能だろうか。

基本的には、これまでの飛行実績や、今も飛行機が飛んでいるという実例に基づいてYesと言えそうだ。

しかし、屁理屈に聞こえるかもしれないが、明日以降に飛行機が同じように飛べるかは誰にも分からない。

したがって、飛行機を飛ばす現在の理論は今のところ反証されていない、仮説にすぎないのだ。

「そこまで厳密に考えなくても」と思うかもしれないが、ある事柄が100%正しいと考えることの弊害は少なくない。

これまでの科学的大発見の多くが、既存の常識に囚われた良識派と呼ばれた人々によって

当初なかなか受け入れられなかった事実を考えれば十分お分かりだと思う。

 

人間の弱さを弁える

哲学的に言えば、人は何かを信じ、それに拠って立つことで存在する実存的存在である。

したがって、自分の立脚地を求めようとして、物事を100%確かだと信じる傾向があることは否めない。

だとすれば、帰納法(フランシス・ベーコン)的に“正しい”ことを確認するのでは、客観的でない。

「データが仮説をくつがえす」のではなく、「理論を倒すことができるのは理論だけ」(デュエム)なのである。

仮説というのは白から黒に180度ひっくり返る可能性を持っていることを肝に銘じて、

何事も積極的な反証を素直に受け入れる態度こそ、科学に求められることである。

反対に言えば、この点を弁えることは、反対に新しい仮説への可能性を開くことでもある。

古い仮説を倒すことができるのは、その古い仮説の存在に気づいていて、

そのうえで新しい仮説を考えることができる人だけなのです。

 

共約可能性を目指して

僕らにも新しいパラダイムを生み出すチャンスがあるというのは、非常に夢のある話だ。

しかし、そこには越えなければならない障害がある。それが著者のもう一つのメッセージになっている。

それは「共約不可能性を越える翻訳作業が必要」であることだ。

今日、学問はどんどん細分化し、タコツボ化したことで、学問分野間の共通言語を失っている。

確かに、タコツボ化した方が特定領域における専門性は高まるが、現代の学問が扱う課題は、

クローン問題ひとつとっても、理論と実存の両方をはらんだ複合的な課題が増えているのが現実だ。

学問領域という手段ベースでなく、実存の探究という目的ベースで、科学・宗教学・歴史学などを

自在に組み合わせるコラボレーションのあり方を、僕らは探っていく必要がある。

そうした試みが、ひいては宗教間や国家間の橋渡しとしても、重要な仮説を提示することにつながるだろう。



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