発想法 創造性開発のために

発想法―創造性開発のために (中公新書 (136))

「アッ」という瞬間を意識的に作る方法

“発想”(新しいイノベーションを導くインスピレーション)は、どこからやってくるのか。

過去の経験を積み上げたり、理詰めで考え抜くことだけでは、発想に辿り着くことは難しい。

「書斎科学」や「実験科学」のような、ある理論へと収束させようとするような活動だけでは、

収束とは逆方向にある新しいものはできないのである。では、“発想”は、どこから湧いてくるのか。

将棋の羽生善治が、ベストセラー『決断力』の中で、数多ある指し手の中から決断するカギとして

物事を“点”ではなく“線”、“全体”として把握する力、すなわち「直感力」が重要だと述べていたが、

このように、物事を突き詰めるところから一度視点を上げた時に、ふと「アッ」と気づく瞬間がきた経験は

誰しもあるはずだ。本書で紹介されている「KJ法」という有名な発想のテクニックは、

まさにこの「アッ」という瞬間を意識的に作り出そうという思想から生まれたものである。

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「直観」と「直感」

もちろん、理詰めと発想は、どちらが欠けていても物足りないものである。

科学哲学者カール・ポパーも、羽生善治の「直感力」と同様に、

科学的な仮説(反証可能性命題)というのは、個々の事例の関係性から導かれる“直観”に

支えられていると指摘したが、この“直観”というのは、あくまで“直観”(帰納的飛躍)であり

“直感”(でたらめな思いつき)ではない。

経験が積み重なってきたときに、ふとこれまでに考えつかなかった物事と物事のリレーションに

気づいた瞬間、論理的な手続きを超えて、発見へと到達するプロセスである。

多産な発想力を身につけるには、このような発見の下地となる幅広い経験を積んでおくことが

ポイントになるというわけだ。

 

事前の準備が大切

では、ここからKJ法を簡単に紹介しよう。まずは、手元に以下のものを用意してほしい。

実務経験から言って、たかがファシリティ、されどファシリティで、

こういったツールがしっかり揃っていた方が確実にアイディア出しがしやすいのであなどれない。

  1. 黒鉛筆またはペン
  2. 赤・青など色鉛筆
  3. クリップ
  4. 輪ゴム
  5. 名刺大の紙片
  6. 図解用の半紙大の白紙
  7. 文書を書くための原稿用紙
  8. 紙片を広げるための場所

 

KJ法の実践ステップ

KJ法では、トップダウンで概念を要素分解するのではなく、ボトムアップで新しいアイディアを出す。

著者は、このボトムアップアプローチの一連の流れを3つのステップで説明する。

<発散>ブレーンストーミング:徹底的なアイディア出し

<収縮>KJ法:アイディアの一行見出し化、グルーピング

<構造化>PERT*法:グループ間の因果・前後関係の整理
*Project Evaluation and Review Technique

 

<発散>ブレーンストーミング

ブレーンストーミングのコツは、何ら選択性を含まない(ようにする)ことだ。

アイディアを出せと言うだけでアイディアが出るわけないので、

大まかな議論の方向性は周到に準備する必要はあるが、

基本的にはどんな意見もウェルカムというところにこの手法の意義がある。

<収縮>KJ法

次に、ブレーンストーミングで出てきた緩やかな意見・問題意識を、紙に一言化した上で、

グルーピングし、アイディアの“群”をどんどん作っていく。

グルーピングの視点としては、概念の近さだけでなく、因果関係、時系列など、

様々な観点から「これとこれは○○で共通しているのでは?」とみんなで検証を加えていく。

小さなカードに書き出されたアイディアは、徐々に大きな“群”になっていく。

<構造化>PERT法

KJ法でアイディアの“群”を作ったら、更に視点を引き上げて“群”同士の関係を考える。

PERT法は、ITや建設などの大型プロジェクトを管理する手法として知られているが、

ここでは、アイディアの“群”の中で、例えばどれが最も根本的な要素なのか、

どういう順序で物事を考えるべきなのかなど、アイディアフラッシュだったものを

ひとつのアイディアストーリーに仕立てていくフェーズである。

 

KJ法の本当のメリット

KJ法に対しては、これはあくまで誰もがやってきたことを可視化したに過ぎず、

「利点となるのは、頭が鈍い人が集団で考えるときだけ」(立花隆)という批判もある。

しかし、KJ法が有効に働くシーンとそうでないシーンをきちんと区別しさえすれば、

KJ法のようなボトムアップアプローチだからこそアイディアを出せる領域はあると思う。

なぜなら、著者が「野外科学」と称しているように、現場では、個別文脈的な問題に対して

すばやく暫定的な答えを出しながら、理論と実践のPDCAを連続する方が有用だし、

また、KJ法はチームワークを前提としており、頭の中で起きていることを集団で共有することで、

メンバー間の創発(=「干渉作用の累積効果」)を促し、アイディアを圧倒的に広げられる。

『V字回復の経営』(三枝匡)という企業再生の物語の中で、KJ法が使われるシーンがあるが、

このプロセスがメンバー間の共通言語を形成していく様子は、まさにKJ法の良さを表していた。

はじめは漠然と、問題がただ一つだと思っていたところが、内部体験の結果、
じつはぜんぜんちがう問題が二つ重なっていたことがわかることさえある。
われわれは自分の問題だから、自分にはよくわかっているように思い込んでいるのだが、
じつは上記のように一度外部に表現し、それをフィードバックしないと信用できないのである。



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