アジアの隼

アジアの隼 (上) 祥伝社文庫 アジアの隼 (下) 祥伝社文庫

ファイナンス活用の経営テーマ化

コーポレートファイナンスの複雑なストラクチャーを活用して、新たな戦略に打って出る。

そんな大掛かりなファイナンスが絡む取り組みが、日本でも増えてきたように感じる。

もちろん、金融や商社がクライアントであれば珍しい話ではないが、僕が関与した案件でも

非常にドメスティックな上場企業で、これまでは対外的な見栄えのために上場しているような

企業だったのだが、ドラスティックな改革のために海外のファンドがブリッジ・ローンを組み、

更に国内銀行のシニアローンと取引先企業の共同出資も加えて、

巨額の資金を集めるというストラクチャーを組んだことがある。

投資銀行やファンドを使って、ファイナンス手法を利用することは、

既に経営テーマのひとつとも言えるのではないだろうか。

 

コーポレートファイナンスの舞台裏

一方で、コーポレートファイナンスには資金の貸し手側の物語も存在する。

『アジアの隼』は、グローバルで活躍する金融機関(レンダー)を舞台にした面白い小説だ。

日本長期債券銀行のハノイ駐在員「真理戸潤」は、ベトナムでのファイナンス案件獲得に奔走する。

ベトナムの理不尽な商習慣に戸惑いながら、彼は日本の大手商社の巨大発電プロジェクトの

ファイナンス獲得に足がかりをつけるのだが、この巨大プロジェクトの入札を巡っては、

大手米銀ハノーバー・トラストのヴー・スアン・シンが立ちはだかることとなる。

彼は、日本へ国外逃亡した経緯から松本賢治という名も持つベトナム人で、金銭や名誉に対し、

比べ物にならないほど執着を持っていた。しかも、同行で昇進の階段を駆け上がってきた彼は、

キャリアの頂点であるマネージングディレクターを目指し、成果をあげようと必死に手を回してくる。

多額の損失が明るみになった窮地の長債銀を尻目に、シンはディールを掻っ攫おうとするのだが・・・。

 

ペレグリンの栄枯盛衰(ドキュメンタリー)

さらに、この物語にはもう1つのストーリーが交差する。

それは、1988年に香港で創業した実在の地場証券会社ペレグリンである。

強力な華人人脈に加え、リスクを恐れぬ積極性を持つ同社は、みるみるうちに業容を拡大し、

アジアにおけるファイナンスの王座へと駆け上がりつつあった。

ストーリーの中心となる人物は、債権部長である韓国系アメリカ人のアンドレ・リー(実名)である。

彼は米系証券会社から部下を引き連れて入社し、同社の債券業務を第2の柱に育てた立役者だった。

しかし、この債券業務が、のちに同社にとって致命的な打撃を与えることになる。

物語の中でも指摘されているが、長債銀同様、ペレグリンが破綻した原因は営業部が審査権限を

持っていた利益相反構造にあるのだが、成果主義の精神を剥き出しにして、

われ先にと短期的な成果に飛びついていく姿が、非常にリアルに描かれている。

 

ビッグディールから見えてくるもの

ハゲタカが餌に群がるように、ペレグリンも先ほどのビッグディールに関与することになる。

このビッグディールは、果てはベトナムの政治を巻き込み、

様々な金銭的利害やプライドが交差する深謀遠慮の渦に関係者を飲み込んでいく。

果たしてビッグディールを勝ち取るのは誰か。ジェットコースターのように物語はラストを迎える。

読者は、物語のエキサイティングな面白さに興奮しながらも、あれだけ興隆をきわめたペレグリンの

あっけない最期や、同社を倒産に至らしめたタイ・バーツ暴落の構造を目の当たりにするにつけ、

リーマンショックがいくらでも起こりうる構造がそこにあることに嫌でも気づかされる。



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