ブロックバスター戦略|アニータ・エルバース

ブロックバスター戦略―ハーバードで教えているメガヒットの法則 Blockbusters: Why Big Hits - and Big Risks - are the Future of the Entertainment Business (English Edition)

メガヒットはどうやって生まれているのか?

インターネットが取引の限界費用をゼロに近づけたおかげでビジネスは大きく変わったと言われる。Amazon.comやApp storeのようなプラットフォームによってロングテールにもファンが集まるようになり、Angry Birdsのようなスマホゲームは全世界から“ちりつも”で莫大なビジネスを生み出せるようになった。いわば「アイディアさえよければちゃんと売れる」時代になったわけだ。

しかし、本当にそうなのだろうか?ハリウッドやプレミアリーグは相変わらず莫大なお金をかけて興行を行い、スーパースターたちには莫大なギャラが支払われている。リーンスタートが流行るベンチャー企業でさえも出資金をはたいてCMを大量投下し、いまや広告出稿額の上位を占めるまでになっている。誰もがアイディアを全世界に届けられるようになった半面、実は大量のアイディアに埋もれないための競争が激化しているのだ。

本書『ブロックバスター戦略』は、この隠れたメガヒット競争に焦点をあてた面白い1冊だ。著者はハーバード・ビジネススクール教授のアニータ・エルバース。デジタル時代を象徴する「アイディアで一夜にして夢をつかむ」式のビジネスモデルに注目が集まりやすい中で、実は同様にデジタル時代のカギを握る「圧倒的なコンテンツと露出の力で成功を手に入れる」ビジネスモデルを、ショービジネスを題材に解き明かしていく。

商品ラインに均等にリソースを分配し(どんな商品が受けるのかわからない場合には、一見最も効果的なアプローチに思われる)、利益を増やそうとしてコスト削減に努めるよりも、ブロックバスターを狙って大きくつぎ込み、“その他大勢”につぎ込む費用を大幅に少なくすることが、ショービジネスの世界で常に成功を収める確実な方法なのである。

なぜスーパースターに何億円も支払うのか?

ここでクイズ。日経エンタテインメント!によると近年の映画出演料が最も高かった俳優は『アベンジャーズ』に出演したロバート・ダウニーJr.だった。では、彼の映画1本あたりのギャラはいくらか。答えはなんと約5,000万ドル。俳優1人のギャラが制作費全体(『アベンジャーズ』で約2億2,000万ドル)の20%にもなる額だ。『アベンジャーズ』の興行収入が結果的に約15億ドル(!)になると知っていれば決して高くないが、当たりはずれの大きい映画の出演料にここまでつぎ込むなんて、本当に合理的なことなのだろうか。

最も理解しなければならないブロックバスター戦略の本質は、まさにこの無謀とも思えるリスク・リターンの考え方にある。著者は冒頭で映画業界においてブロックバスター戦略で大成功したWarner Bros.と、一見合理的なポートフォリオ投資が大失敗に終わったNBCを比較して、ブロックバスター戦略が実はコンテンツ競争を勝ち抜くために合理的(避けて通れない選択)であることを証明していく。

非常に面白いのは、よくロングテールで稼いでいると言われるAmazonやHuluも、ベストセラーで稼ぐ割合がどんどん高まっているという事実だ。著者が指摘するように、「時間の経過とともに消費者がネットで買い物する量が増えると、テールは長くなるのだが、明らかに細くなるのだ。しかも、ベストセラー商品の重要性が低下していくということはない。むしろ、増すのだ」。デジタル時代「でも」というより、デジタル時代「だからこそ」ウケるコンテンツは全世界でとことんウケる。あのYoutubeがわざわざ莫大なコストをかけて専門チャンネルに奮闘しているのも、こうした構造を踏まえると狙いが見えてくる。

ブロックバスター戦略_投資と成果の典型的パターン

ブロックバスターに対する投資と成果の典型的パターン

ブロックバスター戦略の3つのポイント

ブロックバスター戦略は大規模な投資と引き換えに、集客が見込める脚本を買い、多数のファンがいるタレントを起用し、大量に広告を投下して確実に集客する。しかし、もし本当にそれだけなら、お金さえあれば誰でもできるはずだ。ブロックバスター戦略を真似できない戦略として成り立たせるキモは経営に組み込むことにある。著者が指摘する経営に組み込むためのポイントは、大きく3つのステップに分けられると思う。

Step 1. 勝ち馬コンテンツを手にするための集中投資

Step 2. 関係者との優位なリレーション構築

Step 3. グループ全体のブランド価値への還元

この3つのステップは、3つで1セットだ。集中投資(Step.1)で勝ち馬コンテンツを手に入れられたとしても、それを流し込めるチャネルとのリレーション(Step.2)がないとマーケットの認知を得られない。コンテンツ(Step.1)とリレーション(Step.2)の両方があったとしても、ブランド価値(Step.3)に昇華できない限り、単発でのリスキーな賭けからは脱却できない。莫大なアップフロントコストをしたたかに回収(リクープ)する仕組みをどれだけ用意できるかにかかっている。

 

ブロックバスター戦略を有効活用する先進事例

さらに著者は、基本戦略である3つのステップに加えて、ブロックバスター戦略をより有効に使いこなすための取り組みを紹介している。これらの取り組みは、まだまだ数少ない先進事例ではあるが、今後もより過熱するであろう競争の中で、単純な資本勝負からいち早くルールチェンジするための大きなヒントになる。個人的には本書の中で特に発見のあった内容だ。

① コンテンツとの共存共栄

② メジャープレーヤー×ニッチプレーヤー

③ 異業種への応用

現代のビジネスストラテジーは、従来のポートフォリオ戦略的な伝統的アプローチが通用しない世界をどう生き抜くかに焦点があたってきている。イノベーションのジレンマと戦う新規事業戦略や、他力を借りて果実を最大化するM&A・アライアンス戦略に加え、このブロックバスター戦略はこれからの戦略発想を大きく左右するキーストリームになっていくと感じた。

 



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