毎日が自分との戦い 私の実践経営論

毎日が自分との戦い―私の実践経営論 (日経ビジネス人文庫)

希代の経営者、金川千尋

信越化学工業は、塩ビと半導体シリコンウエハの分野で世界のトップを走るメーカーだ。塩ビと言えば長引く住宅市場の低迷、半導体シリコンウエハと言えば急激な需要と価格の変動と、いずれも業界全体として厳しい環境であるにも関わらず、信越化学は増収増益を続けている。

僕もあるコンサルティングの中で、半導体関連企業のベンチマークを行ったことがあるが、信越化学の経営体質の強靭さに驚いたのを今でも覚えている。この強さは一体、どこから生まれているのか。米子会社シンテック社長として同社を米国トップに導いた後、本体の信越化学でも20年にも渡って陣頭指揮を執り、信越化学第2の創業者とも呼ばれる金川千尋(現会長)の言葉に直接あたってみることにした。

 

経験との出会いを大切に

本書は、日本経済新聞の「私の履歴書」での連載をまとめたものである。したがって、同連載の通例通り、物語の前半は、金川千尋の青春時代の回想ではじまる。このあたりは読み物として楽しく読んだが、実は後半で語られる彼の経営哲学と密接な関係がある。例えば、京城で終戦を迎えた彼が感じた虚脱感と、力強く生きていくための気構え。

戦争に負けたからといって、屈辱に甘んじたくないという思いが私にもあった。また、国に頼ってはいけないと痛感した。経営者になってからも、国の保護がなくては成り立たない事業をしてはいけない、というのが私の一貫した考え方になった。大卒で入社した極東物産(現三井物産)で体験した、不良債権の処理での教訓。

会社が破産すると経営者はどんな境遇に置かれ、どんな運命をたどるのかもつぶさに見た。管理部での得がたい経験は、経営者になった私のなかでいまも生きている。

また、若気の至りでのめり込み、痛い目を見た株式投資もひとつの経営訓になっている。

会社で株や不動産など本業以外の投資を絶対に認めないのも、株で失敗した実体験があればこそ。空理空論ではなく自分でひどい目にあったから、現在でも確信をもって実行している。

些細なことも見逃さずに、様々な経験との出会いから学ぶことの重要さを痛感させられる。

 

米子会社シンテックの成長の裏側

財閥解体後の揺り戻しとして、極東物産も慌ただしい商社再編に巻き込まれていくことになる。そうした組織のゴタゴタと、自分でモノを作りたい思いから、彼は信越化学に転職する。そして、彼は配属された海外事業部で、徹底して現場に赴き、取引先との信頼関係を築いていく。

私はその場で「イエス」と答えた。まだ課長だったが、グズグズ迷っていては仕事にならない。

こうした覚悟ある判断により、彼はポーランド、ペルー、ニカラグアなどで事業開拓に成功する。このスタンスこそ、次に初めて経営者としての立場で配属された米子会社シンテックについても、弱小企業からトップメーカーに育て上げられた最大のキーポイントではなかったかと思っている。第二次オイルショックの反動という苦境の中でも、トップセールスでギリギリの即断即決する。成熟産業と言われながらも、機を見て設備投資を決断し、スピード勝負で事業を拡大する。経営者の資質とは、このように社を左右することには自分で手を下す覚悟を、精神的・技量的に持てることなのだろうと感じる。

一方で、全従業員230人のうち、工場が210人で、営業担当者はわずか8人、借入金もないので専門の財務担当者がいないという、驚くほどストイックな経営体質もシンテックのヒミツであることにも触れておく。

 

本丸、信越化学の経営を革新する

彼が慕っていた小田切社長の死後、ついに信越化学本体の社長に就任する。ここでも同様に改革を主導していくわけだが、一番のポイントは300mmウエハの投資にある。信越化学は、需要が立ち上がりはじめた次世代製品に、約1,200億円もの大型投資を行った。しかも、その設備投資の減価償却を、通常の5~10年ではなく、3年に短縮すると発表する。

これは、ウエハのライフサイクルの早さを見越し、早期参入によって先行者利益を確保しようという判断だと頭では理解できるが、この意思決定の早さと、いざとなったら自分が売るというセールスへの責任感があってこそ成せる業だと思う。実際、彼の海外事業部時代のように、次々に世界中の需要が強いところに売っていくことで、信越化学の増設設備の稼働率は、競合に比べて相当程度高い水準を維持できているという。

会社の仕事は「他社もそうしている」「以前もそうだった」といった理由で進められがちだが、まず惰性を振り切り、原点に戻って考えることが必要だろう。「何かおかしい」と感じ、「ではどうすべきか」と考えることが発展につながる。おかしいと感じなくなったら、もうおしまいだ。



“毎日が自分との戦い 私の実践経営論” への2件のフィードバック

  1. 斎藤 より:

    間違えてますよ 極東物産は三井物産ですよ

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