コミュニケーションをデザインするための本

コミュニケーションをデザインするための本 (電通選書)

コミュニケーション・デザインという発想

昨今のマーケティング環境は、「広告やメディアで人を動かそうとするのは、もうあきらめなさい。」といった敢えて極端な主張も、必ずしもおかしな発言とも言えなくなってきている。斬新なメッセージで消費者を落とそうという<PUSH型の発想>が限界に来ている中で、生活者に選ばれるコンテンツやコンテキストを作ろうという<PULL型の発想>へのシフトが求められているとも言い換えられるかもしれない。

広告に留まらず、メディアニュートラルな視点で企業と生活者の間のコミュニケーションを設計するという、新しい発想のマーケティングを開発できるコミュニケーション・デザイナーは電通や博報堂でも両手で数えられるほどしかいないと言われている。その中で、第一人者と目されるのが本書の著者で電通のクリエイティブ・ディレクター岸勇希だ。本書では、ここ3年間、競合プレゼンでも無敗だと豪語する彼独自のデザインプロセスが、具体的な事例と、誰にでも分かりやすい言葉で徹底的に解説されている。

 

コミュニケーションに求められていること

第一章では、コミュニケーション・デザインが求められている背景が概括されている。ここでは、おなじみの総務省「情報流通センサス」による情報過多のメディア環境や、ビデオリサーチのメディア接触調査によるメディアコンテンツの多様化・細分化がデータで示され、生活者の行動がAIDMA型からAISAS型、更にはマス情報からCGM情報に変わってきたトレンドを振り返った上で、生活者が求める新しい3つのメディアの価値を抽出している。

①「能動」の価値(WEB+検索)
②「信憑性」の価値(CGM+クチコミサイト)
③「話題創出」の価値(テレビ、OOHなどのマス)

このような変化の本質を表した以下の図が、第一章のキーチャートだと思う。

コミュニケーションをデザインする本_考え方

『コミュニケーションをデザインするための本』P.28

コミュニケーション・デザインの事例

第二章のコミュニケーション・デザインの事例集が、本書のボディ部分だ。この事例集では、7つのケースについて具体的なキャンペーンの企画プロセスや提案書の抜粋、アウトプットとしての広告やメディアが写真や図で示されており、ひとつひとつの事例について、細部まで追いかけて観察することができるように工夫されている。

CASE1. 話題を広げる
永谷園(女子大生発のクチコミ型コミュニケーション)
CASE2. 徹底的に尖る
ワールド通商(ゲーミフィケーションによる世界観のブランディング)
CASE3. ニュースをつくる
フマキラー(JR新宿駅のトイレからのバイラル・コミュニケーション)
CASE4. 売れる空気をつくる
ロケットカンパニー(戦略PRを応用した「漢検」ブームづくり)
CASE5. 気持ちをデザインする
マリエール(結婚する女性の気持ちを代弁する40通りのCM)
CASE6. メディアを見つける
メ~テレ(TVとPCを連動させるウルフィ・ティッカーソフト配布)
CASE7. メディアをつくる
新聞ブログ(新聞×ブログの新しいメディアの開発)

特に面白かったのは、ゲームとして徹底的に作り込んだCASE2の事例で、コミュニケーションをB to C視点で徹底して突き詰めたキャンペーンとして従来の発想とは180度異なる。また、結果としてCMに行き着いたCASE5の事例も、40通りのCMがどのように生活者に受け止められ、その気持ちに応えるには、どんな受け皿を用意しておくべきかまで緻密に計算されており、従来とは違ったCMのあり方を提示した、非常に興味深い事例だと思う。

 

コミュニケーション・デザイナーとは

これらの事例を見てもらえば分かるように、キャンペーンで使われているメディアは多種多様だ。いわゆるBTLや、Webサイト、ゲーム、PR、そして結果的にCMになったものもある。こうしたメディア・ニュートラルな視点で、企画からクリエイティブ、制作・PDCAまでを一貫してディレクションするとなると、これまでの広告マンとは全く異なるスキルが求められる。

大切なポイントは、コミュニケーションの凡てを俯瞰してコントロールしていくひとりの人間がいるかどうかということです。

著者は、そんなコミュニケーション・デザイナーとして必要な資質を5つにまとめている。この中でも、個人的には「気持ちをデザインする」という発想が、その他の資質を支えるカギだと思う。

  1. 思い込まずにインサイト
    ⇒肌感覚に頼り過ぎない
  2. 課題解決のためにあるとあらゆる手法、選択肢を考える
    ⇒メディアやキャッチコピーから考えない
  3. メディアと表現を分離しない
    ⇒生活者が広告に接触する瞬間を大切にする
  4. 仕組みではなく、気持ちをデザインする
    ⇒技術や仕組みは目的ではなく手段
  5. 結果に固執する
    ⇒広告の本質を忘れない

コミュニケーションをデザインする本_発想プロセス

『コミュニケーションをデザインするための本』P.117

 コミュニケーション・デザインの更なる可能性

本書の最後には、まだアイディア段階という断りつきで、著者があたためているコミュニケーション・デザインの更なるアイディアがいくつか紹介されている。これらは、確かにまだまだラフなアイディア段階ではあるが、「広告かコンテンツか」や、「コーポレート・デザインやソーシャルデザインへの広がり」など、生活者が求めるコミュニケーションに寄り添ったときに、広告という手段に限らず、コミュニケーションをデザインできるフィールドが広がっていることに改めて気づかされる。



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