コラプティオ

コラプティオ (文春文庫)

3.11後日本への問題提起

3.11の大震災以降、冷え込み、緩慢に縮退していく日本経済。そんな中、政治家宮藤隼人は「私には希望がある」とヴィジョンを掲げ、その有言実行のリーダーシップで国民から圧倒的支持を得て、当時の与党を倒し、内閣総理大臣に就任する。彼の最大の狙いは、震災後に中国やフランスが日本を尻目に原発輸出攻勢を強める中、チェルノブイリ級の事故を起こした日本だからこそ、国として責任をもって原発輸出に取り組み、経済を回復させることにあった。

現実において、東京電力の事故処理は未だ解決の見通しが立たず一方で安倍政権は国民より先にオリンピック委員会で原発の絶対安全を宣言するなど、迷走が続く中において、こうしたテーマ設定は非常に挑戦的だ。実際、著者も一部からは批判を受けたと語っているが、方向性の見えない今だからこそこのような小説が、国民の目を開かせる刺激にもなり得ると感じた。

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アトムプランの裏に潜む影

ストーリーは宮藤に加え、彼を師事し、私設秘書となった白石望と、白石の中学時代の同級生で暁光新聞経済部の記者となった神林裕太を中心に進む。宮藤の私設シンクタンク時代に書き上げた白石の原発の国家戦略「アトムプラン」に着目した宮藤は、白石を懐刀として内閣入りさせ、原発産業の再編に乗り出していく。日本の大手原発メーカー、サクラ電機の国有化をスクープした神林は、この報道をきっかけに白石と再会し、白石と宮藤の動向を追いかけていくことになる。

そんな中、アフリカの小国ウエステリアでクーデターが勃発、日本人ボランティアが死亡する。この国には日本が発見したウラン鉱山があり、その開発権を巡り、各国の思惑が交錯する最中での出来事だった。宮藤のアトムプランは、このクーデターと何らかの関連があるのか。物語は、老練な首席秘書官の田坂や、“闘犬”の異名を持つ東條記者などの魅力的な登場人物を交えながら、ウエステリアの謎を巡る政治に突入していく。

 

宮藤総理への期待と戸惑い

それにしても、国家のトップとしての宮藤のリーダーシップには、目を見張るものがある。もちろん、国内で決着がついていない中での原発輸出は、相当大きな問題を抱えている。しかし、宮藤が福島原発にほど近い自戒の丘で行った演説は、聴くものを奮い立たせ、出口の見えない停滞感苛まれていた日本国民がそこに未来を感じたのも事実だ。

そうした感覚の大半は、決断的なリーダーを頼ろうという単なるポピュリズムだったかもしれない。ただ、終わりなき日常から抜け出たいというこの国の声に、どこか刺さるところもあったのだと思う。白石も、おそらくこのような相反する思いの中で、宮藤との距離の取り方に逡巡する。国を導くための正義とは、一体何なのか。果たして、真実を知った白石はどうしたのか。白石の姿に重ね合わせながら読んでほしい。



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