「敵対的M&A」防衛マニュアル

「敵対的M&A」防衛マニュアル―平時の予防策 緊急時の対抗策

敵対的買収のバイブル

本書は、ライブドアによる買収合戦など、日本においても敵対的買収の可能性が認識され出した当時に野村證券のIB(投資銀行)チームが先陣をきって取りまとめた敵対的M&Aの実務書である。野村證券と言えば、2006年の王子製紙による北越製紙への敵対的買収提案(失敗)において、王子製紙側のアドバイザーを務めるなど、敵対的買収にも果敢にチャレンジしており、本書からも、そうしたリーディング証券会社としての姿勢が感じられる内容の濃さになっている。

具体的には、「そもそも敵対的買収とは何か」に応える基本知識や事例紹介に始まり、買収防衛策を導入することの意義や論点、実際に敵対的買収を仕掛けられた場合の実務対応まで、一通りの内容が網羅されている。

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被買収者だけでなく買収者のことを知る

個人的に本書をおススメしたい理由は、2つある。

ひとつは、とにかく買収防衛を薦めるセールスではなく、買収防衛をあくまで客観的に捉えている点例えば、「買収者からみた敵対的買収の局面」の節では、買収者側の意図や行動を架空の事例も交えて解説されており、買収者はなぜ敵対的買収を選ぶのかを踏まえた上で、買収防衛策を議論している。

もうひとつは、敵対的買収事例について、それぞれどのような経過を辿ったのか丁寧に分析している点だ。日米における敵対的買収事例が多数紹介されているが、特に興味深かった事例は、Cable&Wireless(C&W)の事例と、日本ドレーク・ビーム・モリン(DBM)の事例である。この2つの事例については、少し詳しく紹介しておきたい。

 

敵対的買収における駆け引き

C&Wの事例は、C&Wが国際デジタル通信(IDC)に敵対的TOBを仕掛けた案件である。C&WがTOBを提案した当初、他の株主は反対していたが、C&Wが対抗馬であるNTTより高いオファーを提示したのに加え、経済合理性に基づく公正な判断が行われるよう国際世論にアピールしたことで、IDC株主のトヨタや伊藤忠は、自社の海外株主や取引先からこの案件について透明性の高い判断を求められることになり、結果、C&Wの提案に賛成せざるを得ない状況を作ることに成功した。

DBMの事例は、正確には敵対的買収の事例ではないが、DBMの創業者がDBMの経営陣に対して株主提案を実施した結果、プロキシ―ファイト(委任状争奪戦)にもつれ込んだ事例である。この事例では、経営陣がソリシター(外国人株主の判明調査や議決権行使促進の専門家)を起用し、議決権行使を促すことで、創業者の議決権の影響力を薄め、プロキシ―ファイトに勝利した。

 

敵対的買収の戦略性を知る

この2事例は、後ろで手を回したり、買収防衛策を無理に導入して案件をつぶすような、日本では“よくある”事例と違い、ステイクホルダーに対して互いに働きかけ、アピールすることで敵対的買収に対する賛否を形成していく駆け引きがよく分かる。

例えば、カギを握る取締役は誰で、その人にどんなタイミングで、何の視点からメリットを伝えるべきか。ステイクホルダーや世論とどうコミュニケーションし、その際にはどんなメッセージを発信すべきか。風向き次第で案件の成否が左右されるデリケートな状況下で、交渉優位に運ぶためのポイントがしっかりと事例に散りばめられていると思う。



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