二重らせん

二重らせん (講談社文庫)  The Double Helix

DNAの世界的発見を巡るドラマ

DNAの二重らせんは、胚性幹細胞等のクローン理論を支える分子生物学の一大発見であり、

また、DNAを辿ることで自民族中心主義に一石を投じた、社会的にも意味の大きい理論である。

これを発見したワトソンとクリック、ウィルキンスは、1962年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。

本書は、まさに主役たるワトソン自身の手による二重らせん発見の記録だ。

そこに描かれているのは、分子生物学の専門的な議論というより、

二重らせんの発見に至るプロセスや、栄光を巡る熾烈な競争のスキャンダラスなドラマである。

(専門的な議論は、本書と平行して執筆されたMolecular Biology of the Genesに譲っている。)

社会的に重要な発見を成し遂げようというモチベーションと同時に、

ライバルの先を行きたいという見栄や焦燥感に突き動かされる様が素直に表現されており、

良くも悪くもプロフェッショナルらしさを垣間見ることができて面白い。

ちなみに著者は、登場人物の中でも特に頭の切れる(悪く言えばずる賢い)役者なので、

書いてあることは引き算して読むくらいがいい。

 

裏に隠されたスキャンダル

この本の中では、ワトソンがいかに成功に辿り着くかが中心に描かれているが、

実がこのドラマの裏には、あるスキャンダルがあったことがよく知られている。

ワトソンが、ある女性研究者の研究成果を盗作したという疑惑だ。

DNAの構造を解明するには「X線回折」の技術を用いた写真が必要になるのだが、

その専門家に、ロザリンド・フランクリンという研究者(ワトソン曰く頭がかたい”暗い”女性)がいた。

実は彼女こそ、DNAがらせん構造であると推定される決定的な証拠を掴んでいたのだが、

彼女の上司が無断で取ったコピーをワトソンが盗み見て、自分のものにしてしまったというのだ。

その経緯の記録を読む限りは違法でなさそうだが、科学的偉業の背景には、

フェアとは言えない手段も含め、アグレッシブに成果を追い求めるワトソンの執念があったのだ。

こういう生々しい側面も含めて、本書を楽しんでほしい。

 

モデル視点の研究アプローチ

個人的に頭に残ったのは、二重らせんの発見プロセスにおけるワトソンとクリックの研究アプローチだ。

単純に言えば、目指すべき理論の周辺理論からヒントを得て、そこからの着想で仮説を立て、

顕微鏡ではなく分子の模型をいじりまわして、モデルとしての整合性を検証していくスタイルだ。

最後の最後まで実験を避け、モデルがロジックとして必要条件を満たしているか、

モデルそのものとして美しいかの検証を徹底的にやるわけだ。

これは、まさに戦略コンサルティングのワークスタイルと非常に似ている。

ディスカッションで論点を洗い出し、それらの論点をもとにストーリーやフレームワークを抽出する。

それを支えるファクトは、ストーリーが固まった段階で初めて本格的に集める。

ワトソンとクリックが科学の世界でやってのけたことは、

ビジネスにおける仮説思考のロールモデルとして参考にすべき事例である。



この本についてひとこと