バフェットからの手紙

バフェットからの手紙 [第3版] (ウィザードブックシリーズ) The Essays of Warren Buffett: Lessons for Corporate America, Third Edition

オマハの賢人(Oracle of Omaha)が教える投資の鉄則

ウォーレン・バフェットは、アメリカを代表する伝説的な投資家だ。彼が40年以上に亘りINDEXを大きく上回る投資リターンを上げ、株式投資をスタートした時の1万ドルを、2008年には460億ドル(世界第1位)に増やしたことは、株式投資に関心のある誰もが知る伝説だ。

なぜ彼は、統計の専門家が異常値として除外するほどの成績を残すことができたのか。その謎は、実は本人が誰にでも教えてくれる。彼の投資会社Berkshire Hathawayが公開しているShareholder Letterには、Chairman’s Letterとして、投資家として、そして経営者としての哲学がつまっている。本書は、このChairman’s Letterを再編集し、誰にでも読みやすい形にした貴重な労作だ。

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伸びる会社、滅びる会社を見極める4つのポイント

本書は、ガバナンス、ファイナンス、普通株、M&A、会計・税金の5テーマに分かれているが、ここでは、僕が得た4つの学びの視点でエッセンスを紹介してみたいと思う。

 

①投資リスクの取り方

バフェットの投資哲学を象徴するのが、「内在価値」を買うという戦略だ。内在価値とは、その企業の本源的な収益力に基づいて計算される価値の総和を指す。事業環境とその中でのポジショニング、経営者の資質とオペレーションの足腰の強さ、その結果として表れる実態収益力を総合的に評価し、企業価値の計算に落とし込む。バフェットは、この読みと市場価値(株価)とのギャップこそ投資のキモだと何度も強調している。

学識者の多くが私たちのこうした戦略を、普通の投資家たちの戦略よりもリスクが高いと考えるかもしれません。しかし、私たちはそうは考えません。(中略)私たちが定義するリスクとは、辞書にある通りの「損失化、あるいは損害の可能性」です。

バフェットはこのように言い、株式の相対的ボラティリティ(ベータ値)をリスクと見なし、それをヘッジするバスケット(ポートフォリオ)作りのみを信奉する学者やMBAsを批判する。もちろん、複雑なリスクを丁寧にヘッジし、賭けるべきリスクを特定するファイナンスアナリシスは、投資を投機でなく100戦51勝以上のビジネスにするために最低限のリテラシーだけれど、最後に残したリスクが賭けるに値するかを判断するのは、あくまでビジネスアナリシスだという当然の事実にどこまで向き合えるかが投資家として成否を分ける。

賢明な投資家というのは決して簡単にできるものではありませんが、複雑なものではありません。投資家に求められるのは、選択した企業を正しく評価する能力です。重要なのは「選択」なのです。

これが分かると、バフェットが掲げる5つの判断原則の重要性がクリアになる。

  1. 企業の長期的経済的特性を評価できるという確信
  2. 企業の持つ潜在力を生かしきる能力やキャッシュ・フローをうまく利用する能力の両面で、経営者を評価できるという確信
  3. 事業で得た利益を自分たちより優先して株主に還元するという点で信頼が置ける経営者であるという確信
  4. 企業の買い付け価格
  5. 予想される税率とインフレ率と、それによる総収益から投資家の購買力である収益が目減りする度合い

 

②コーポレートガバナンスの本質

株主(プリンシパル)として経営者(エージェント)をどうガバナンスすべきか。この問いに対する最近のトレンドは、ストックオプションで両者の利害関係を一致させ、それでもだめなら首切りというのが、疑うことなきスタンダードになっているように感じる。バフェットは、この「当たり前」の間違いをジョークを交えながら鮮やかに指摘している。

ストックオプションについては、そもそも株主と経営者ではリスクの負い方が違う。株主は資本コスト(回収リスク等)を負っているのに対し、経営者が損することはない。しかも、少し賢い経営者なら、とにかく規模を追求し、利益は全て留保、預金の複利で稼ぎさえすれば、寝ながらにして利益(額)とストックオプションを2倍にできることを知るだろう。

宝くじを人からもらうのは大歓迎です―でも私は自分で買おうとは決して思わないのです。

投資家として様々な経営者と付き合ってきたバフェットは、株主が経営をガバナンスするための規律として、大きく2つのポイントを挙げている。すなわち、利益を見極める能力と、資本配分の代替手段だ。取締役の報酬や社外取締役の導入などを本質的に機能させるには、その前提となるこの2つのポイントをいかに充足させるかの徹底した議論が必要になる。

<利益を見極める能力>

会計上の利益はいくらでも操作できる。EBDIA(=EBITDA)による設備維持費用のごまかしや、ストックオプションによる人件費の簿外費用化にごまかされてはいけない。
「もしあなたが犬の尻尾を足と呼ぶとして、犬の足は何本ですか?」「四本です。あなたが尻尾を足と呼んだからといって、尻尾が足になるわけではありません。」

<資本配分の代替手段>

投資先の利益分配について留保、配当、自社株買い等を常に比較して、どれがベストなのか口を出せることは株主としての責務。常に開かれた他の多くの機会と冷静に比較し、1つの企業の規模拡大に意識が向きやすい経営者とは違う視座で立ち向かえることが、経営者に対して適切な資本の論理を働かせることにつながる。
「私たちにはいくつか有利な点もあります。そのうちで最大の利点とは、私たちが戦略的計画を持っていないということです。」

 

③株主を選ぶという考え方

経営者が株主を選ぶなど、立場を履き違えた物言いのように思われるかもしれない。雇われている側から、雇い主に向かって「あなたが持っているウチの所有権(株式)を手放してほしい。新しい引き受け手は自分たちで探してくるから。」と言っているようなものだからだ。しかし、事業の成長のためにも、大切にしたい既存株主に報いるためにも、望ましい株主を引きつける努力をするというのは、考えてみれば自然な話だ。バフェットはBerkshire Hathawayの経営において、このことを繰り返し強調している。

例えば、株式分割をしないポリシー、権利内容の異なるB株の発行、そして株主総会での徹底したQ&Aなどは、全て株主を選ぶための実践と言える。事業にとって株主にとって何が一番望ましいかを徹底して考えた結果、長期保有の安定株主を95%以上も集めることに成功した彼の実績は注目すべきだ。

株主を選ぶというのは、視点を変えれば望ましい株主には最大限報いることでもある。そうやって経営者の側から株主と最高の関係を築いていこうという発想は、古くて新しい重要な着眼点だと思う。

 

④シナジーにまつわるウソ

合併・買収(M&A)というのは、企業の活動の中でもとびきりリスクが高い。なぜなら、後に得られるであろう成果に賭けて、先にお金を払い切ってしまうからだ。しかも、そうしたリスクを抱えていながら、自力ではどうしようもない、M&Aをすればきっとシナジーがあるという期待に賭けてしまいたくなる“夢”があるというのが厄介だ。

バフェットは、自分の失敗体験を交えて、そんな淡い“夢”を打ち壊す。

投資家はヒキガエルをいつも時価で買うことができるのです。もし投資家が、ヒキガエルにキスする権利を時価の二倍で得ようとするプリンセスに資金を出すならば、そうしたキスはすごい効果を持っていないと困ったことになります。私たちは多くのキスを見てきましたが、ほとんど奇跡は起こりませんでした。それにもかかわらず、多くの経営者たるプリンセスたちは、会社の裏庭に変身しないヒキガエルがあふれてきた後でさえ、キスを持つ未来の効力を信じているのです。

バフェットは「M&Aにはシナジーが無い 」と言っているわけではない。「M&Aにはシナジーが無い 」と「シナジーをM&Aで買ってはいけない」の違いが重要だ。ヒキガエルをプリンスの価格で買うのではなく、既にプリンスになったものをヒキガエルの価格で買うという順序でないと、売り手が圧倒的に有利なM&Aで本当のシナジーを手にすることはできない。

 

バフェットの本当の強さ

最後に、バフェットが優れた投資家であり、経営者であることは間違いないが、本書を読み通して感じたのは、それ以上に彼のビジネスに対して湧き上がるバイタリティだ。彼は、オフィスまでの道を文字通りステップして歩いているんだとも話しており、株主や経営者、従業員とひとりの人間として付き合うことを心から楽しんでいる。新しい人に出会う楽しみに素直であることこそ、彼の本当の強さなのかもしれないと感じた。

陰気な話で締めくくりたくありませんので、みなさんに私が超良好な健康状態にあることもお知らせしておきたいと思います。私はバークシャーの経営を非常に楽しんでおり、もし人生を謳歌することで長寿が促進されるとすれば、メトセラ(ノアの洪水以前のユダヤの族長で、九六九歳まで生きたとされる長命者)の記録さえも破れそうな勢いなのです。



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