フェルマーの最終定理

フェルマーの最終定理 (新潮文庫) Fermat's Last Theorem

“数論”の世界

ロジックとは、人間が思考の中で積み上げることのできる知の“足場”とでも言えよう。

人類は、この足場(ロジック)を世代を超えてつなぐことで、これまで到達しえなかった領域に到達してきた。

ロジックにはいろいろな種類があるが、その中でも最も強力なロジックが、数論という数学の一分野である。

一般的な実践科学が依拠するロジックは常に反証可能性命題(ポパー)であり、いわゆる“定理”にならない。

一方で、E=mc2然り、数論は証明が完成したら最後、普遍的に通用し、基本的には議論の隙間がない。

この物語では、そうした数論のひとつ「フェルマーの最終定理」が解かれるまでの記録が克明に描いている。

 

簡単そうで難しい謎

フェルマーの最終定理自体は、以下に示すように、小学生でも理解できるようなものである。

Xn+Yn=Zn(n≧3) この方程式はnが2より大きい場合には整数解をもたない

面白いのは、提案者フェルマーが、「私はこの命題の真に驚くべき証明をもっているが、余白が狭すぎるので

ここに記すことはできない」としたまま、本当に証明できるものなのか分からないところである。

この解けそうで解けない奇妙な定理に、世界中の数学者が憑りつかれるように証明あるいは反証を試みていく。

本書は、親切にもピュタゴラス以前から数論の発展を紹介しているので、この定理が登場するころには

読者も数論について一端の知識は得られる仕組みになっている。

反面、数論を知れば知るほど、この定理の証明がいかに困難かも、十二分に理解できるようになる。

 

証明の道筋

数学者アンドリュー・ワイルズが試みたのは、nが無限の整数において成り立つことの証明である

(厖大な有限解と無限解にはとてつもなく大きな隔たりがある!)。

帰謬法、背理法、時計算術、帰納法・・・あらゆる数学的方法論を持ち込んでワイルズがたどり着いたのは、

次のようなロジックであった。

  1. もしも谷山=志村予想が証明されれば、すべての楕円方程式はモジュラーでなければならない
  2. もしもすべての楕円方程式がモジュラーなら、フライの楕円方程式は存在しえない
  3. フライの楕円方程式が存在しなければ、フェルマーの方程式は解をもたない
  4. ゆえに、フェルマーの最終定理は成り立つ

このようなネガティブ型の証明によって、ついにフェルマーの最終定理を証明する論理を明らかにした。

 

“数論”の魔力

しかし、このロジックの問題は、谷山=志村予想や楕円方程式、コリヴァギン=フラッハ法、

岩澤理論など、数論の最前線を一通り結集させてかからないといけない点にある。

この戦いは数学者たちの総力戦というべきものだったのである。

ワイルズはひとり部屋に閉じこもって証明の基礎を練り、とうとう聴衆の前で証明を展開し、

以前指摘された細かな論理の穴まで、完璧に修復しきってみせる。

このシーンを読むときのゾクゾク感は、長大なパズルを解いたときの強烈な爽快感に近い。

証明された数論が持つ意味の重要さに感動することが、本来あるべき感動のあり方なのかもしれないのだが、

突き崩す余地のない論理が打ち立てられること自体の凄さに、どうしても感動を禁じ得ない。

一読すれば、数学に明るい人もそうでない人も、“数論”の魔力にとりつかれることだろう。



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