ファーストペンギンの会社 デジタルガレージの20年とこれから

ファーストペンギンの会社---デジタルガレージの20年とこれから

インターネット業界の異端児デジタルガレージ

デジタルガレージという企業をご存知だろうか。1994年、代々木八幡の車庫で、日本で初めて個人ホームページを開設したことに始まった同社は、その後、Infoseek事業の立ち上げ、カカクコムやTwitterへの出資、決済サービスのベリトランス買収など、目まぐるしく変わるインターネット業界の最先端に合わせて会社の形を変えてきた不思議な企業だ。

このデジタルガレージの創業20周年を記念して出版された本書には、もちろんデジタルガレージの活動の軌跡が記録されているわけだが、それはすなわち、インターネットの歴史でもある。同社の求心力たる林郁(CEO)と伊藤穰一(MITメディアラボ研究所所長)が語るインターネットビジネスの進化の歴史と、そこから垣間見える更なる可能性にワクワクさせられる。

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デジタルガレージの誕生

林と伊藤(通称ジョーイ)がデジタルガレージを創業したころは、まさにインターネット黎明期だった。当時、アメリカの一部のGeekがインターネットというものの存在を知り始めたころ、フロムガレージを率いていた林と、アメリカと日本を拠点にコンピューターグラフィックス制作等を行っていたジョーイがサンフランシスコで出会い、カウンターカルチャーの象徴的存在としてインターネットに興味を持ったのがきっかけだ。

そんな中、インターネット事業の日本進出を計画する企業からの依頼で、ジョーイの富ヶ谷のマンションにインターネットの専用線がやってきたことで、昼夜を問わず、Geekが出入りするような場になっていった。そこから日本ではじめて個人のホームページを立ち上げることにつながり、2人のもとには、政府や大企業から「ホームページを作りたい」という依頼が舞い込むようになったという。

 

インターネットビジネスのこれまで

ホームページ作成ビジネスは、ベンチャー企業としては十分な収入につながっていたようだが、2人はこの時点で既に将来のコモディティ化を予想し、次なる可能性の開拓に邁進していく。ホームページ同士をつなぐ検索機能への先鞭、インターネットを介したeコマースへの参入、個人が情報発信するブログへの投資などは、彼らがネットの可能性を見抜いていたことを裏付けている。

彼らが目をつけていたインターネットの本質とは、一体何なのだろうか。本書ではこの点が明確に整理されていないが、僕は“FOOL”というキーワードに集約されると思っている。この“FOOL”は、ソーシャルメディアビジネスの第一人者の武田隆が著書の中で提示したコンセプトだ。

Flat:蜘蛛の巣構造がもたらす参加者の対等性
Open:贈答贈与のコミュニケーション、共同作業
Only:交換不可能な存在としての参加者、One to Oneの関係
Long Term:デジタルの無機質さを超える長期的な信頼関係の構築

インターネットは、この“FOOL”をより進化させる方向に進んでいると考えると自然に理解できる。

 

インターネットビジネスのこれから

本書後半では、“FOOL”の更なる進化の方向性について、林とジョーイが社内外のキーパーソンと対談する形式で議論が進められている。投資家でLinkedIn創業者のリード・ホフマンなどの貴重なコメントが収録されている。その中で、今後のトレンドを占うキーワードとして特に印象的だったのは、次の3つだ。

Webプラットフォームのリアルとの融合(位置情報等)
ハードウェアのイノベーションコスト低下による新プロダクトの創出
決済サービスの自律統合の姿としてのビットコイン

これらのキーワードは、いわゆるO2Oや、モノのインターネット(Internet of Things)と呼ばれる最近のトレンドと重なるところがあるが、そこには単にデジタル化が進む、デジタルとリアルをつなぐだけに留まらない大きな変化を表していると思う。その本質は、デジタルがきっかけとなって、全く新しいリアルのあり方が生まれることにある。本書中でジョーイが中国でのアジャイル開発の現場を紹介しているが、いわゆる”モルタル”だと思われてきた分野も、発想次第で“クリック”的な世界に変えることができる。その変化を彼らは嗅ぎ取っているのだと思う。

 

ファーストペンギンのマインド

デジタルガレージは、創業以来、「ファーストペンギン」の精神を大切にしているという。南極の氷の上で暮らすペンギンたちは、シャチやアザラシなどの天敵がいる海の中にエサを取りにいこうと崖の上に立ったとき、群れは一度躊躇して足を止めるのだという。しかし、しばらくして一羽のペンギンが海に飛び込むと、仲間たちも意を決して次々と海に飛び込む。この最初の一羽こそ、ファーストペンギンだ。

危険を顧みず先頭に立って突き進む先駆者でありたい。インターネット業界の異端児が掲げるこの精神には、業界を超えて学ぶところが大きい。



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