ドトールコーヒー 「勝つか死ぬか」の創業記

ドトールコーヒー「勝つか死ぬか」の創業記 (日経ビジネス人文庫)

意思決定の“相場観”

ドトールのチェーン喫茶店の創業記は、多くのビジネスパーソンやMBAの学生の間で広く知られた物語であろう。

ドトール以前はコーヒー1杯が食事と同程度の値段で、風俗まがいの喫茶店もありと、一般の人が訪れる場所ではなかった。

そこに何も持たない鳥羽会長(出版時点)が乗り込んでいき、結果、現在の大衆的な喫茶店市場が拓けたという経緯は、

ビジネスを学ぶ者にとってこれ以上ない成功事例であり、格好の分析対象なのである。

しかし当然ながら、本書を読んだからといって、誰でも再現可能な成功要因を学べるわけではない。

本書のような貴重な記録からは、意思決定の“相場観”を学ぶことに意味があるのだと思っている。

意思決定においても、「コツ」・「アタリ」のようなものががあると思っていて、

それはどうしても経営者しか体感できないものなので、今のうちから盗めるものは盗もうというわけだ。

 

意思決定のコツ①:商機

鳥羽会長が考える意思決定のコツは、“商機”と、目標実現の必要条件/十分条件を認識すること(=戦略)である。

彼は、ヨーロッパ視察旅行時に固まったビジネスの構想(ドトール事業)を、なんと9年もの後に実行に移している。

チャンスは自分から積極的に仕掛けなければならない。さもなければ、目の前を通過する商機を

みすみす見逃してしまうことになる。ただし、商機というものは―たとえどんなに自分が正しいと

思っていることでも―「時」、すなわち時代の大きな流れ(時代的背景、社会の成熟度)と、

「機」、すなわちそのことを起こそうとする機会が合致して初めて、味方になってくれるものだ。

彼は、商機を待ちながら、一方で飲食店の命であるSC、肝となるフランチャイズ等、ビジネスの要諦について準備を進めた。

 

意思決定のコツ②:戦略

鳥羽会長が喫茶店業に関わってから早60年、はじめはブルーオーシャンだった喫茶店業界も新たな競争に揉まれている。

喫茶店に通う消費者の層が変化したことで、喫茶店に行くことの意味を見直す変局点に差し掛かっているからである。

コーヒーを飲むこと自体にラグジュアルな意味を持たせ、のどの渇きを癒す以上の価値を生み出したスターバックスでさえ、

類似する競合が出現したことを受け、業態がコモディティする流れに逆らうための実験を日々繰り返している。

ドトールは、業界のパイオニアとして旧来の成功モデルを引きずりやすいと考えられるが(イノベーションのジレンマ)、

僕個人としては、食事メニューの充実や新業態への展開等、改革にいち早く着手できているように感じている。

鳥羽会長が強調する「先回りをして心配する」意識が、今でも生きている証左だろう。

「想うことが思うようになる」ためには、想いを達成する手段には常に敏感かつ柔軟であることがポイントだ。

 

創業者の負担

余談になるが、本書のタイトルにある「勝つか死ぬか」というのは、日本における創業時の負担の著しい大きさを表している。

個人資産を全て担保に取られ、負ければ再起不能という日本の起業環境は、創業を志す者に過剰な負担となる場合がある。

鳥羽会長は、それも含めて乗り越えたわけだが、それが創業に課される正当なリスクと言えるかどうかは疑問の残る問題であり、

事業再生に関わる専門家をはじめ、多くの関係者が危惧しているところである。

今後、次なるドトールを生むような土壌を、日本に根付かせようと思うのなら、この点に留意すべきことは付言しておきたい。



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