テレビ・ドキュメンタリーの現場から

テレビ・ドキュメンタリーの現場から (講談社現代新書)

テレビ放送の「現場」と「歴史」

著者の渡辺みどりは、皇室報道やドキュメンタリー制作に関わってきたTVジャーナリストだ。テレビ放送開始まもない日本テレビに入社した彼女は、当然、テレビ番組の制作の現場に何十年と精通した業界人であるとともに、テレビというものの歴史と役割を見てきた証人でもある。現在は、文化女子大学客員教授を務めており、本書はそこで実際に受講している友人から借りた。テレビ局で働くことを考える学生にとって、現場を知るいいきっかけになるだけでなく、テレビの歴史的変遷を学ぶ記録として読み応えのある1冊だと思う。

第1章 テレビ番組の成立条件
第2章 番組制作を担う人々
第3章 映像組み立てのプロセス
第4章 私とドキュメンタリー
第5章 報道の歴史と役割
第6章 放送局の仕組みとネットワーク
第7章 報道の自由と責任

 

テレビの3つの価値

前半で解説されるテレビビジネスに関する基礎知識は、業界人としては当たり前とされてしまうところなので、初心者にとって改めてまとめられているのはありがたい。著者は、そのテレビビジネスを理解するためのフレームワークとして、以下の3点を挙げる。テレビの価値は、この3つの複合でなりたっているということだ。

 

商品価値=視聴率

商品の価値ということで言うと、テレビは良くも悪くも「視聴率」が絶対的な指標になっている。テレビの主な収入源であるスポンサー収入は、広告枠の販売で成り立っているが、この広告枠(例えば日曜の18:00~18:30の枠など)の価格は、視聴率で決まるからだ。

視聴率の定義は、「世帯視聴率」=GRP(毎分の視聴率の合計)÷放送分数(放送時間)と、「総世帯視聴率」=テレビ視聴世帯÷テレビ所有世帯の2つが代表的だという。更に、近年ではデジタルで調査対象の世帯の「誰が」テレビを見ているかを把握できるようになってきており、大雑把に世帯ベースで視聴者層を把握するだけでなく、よりOne to Oneに近い形で番組づくりやCM編成ができるようになってきている。著者はこうした最近のトレンドを、ジャーナリズムと商業主義の相克に関する問題も含めて分かりやすく解説している。

なお、タイムCMとスポットCMの違いや、視聴率の仕組みなどについても業界内でしか知られていない情報を紹介しており、業界のマメ知識には事欠かない。

例えば、番組に挿入されるタイムCMでは、実はスポンサーは電波料や制作費の全額、さらにネット料という地方の電波料なども払わなければならないことになっている。また、タイムCMを買いたいとなると、A・特B・B・Cのように時間帯によってランクづけされた価格表にしたがって料金が決まっており、本書では大まかな一覧表まで掲載している。スポットCMの方は、番組と番組の間に挿入されるもので、時間帯で料金が異なる。

視聴率については、国内に3社ある視聴率調査会社について紹介されている。1つはNHK放送世論調査所で、NHKのみを対象に調査しており、残りの2つ(アメリカのニールセンと日本のビデオリサーチ(民放・電通・東芝の共同出資))が民放の調査を行っており、業界内のパワーバランスは色々あるものの2社が競合することで調査内容も次第に変わりつつある状況を紹介している。

 

番組価値=作品の完成度

番組の価値については、番組制作の現場で働く様々な職種について紹介されている。例えば、プロデューサーの仕事は企画に始まり、予算の編成やタレントの確保、シナリオライターとの打ち合わせ、スポンサー(代理店)との交渉など番組準備の多岐にわたる。特に予算の確保(つまりスポンサーとの契約)が最重要のミッションだ。

そして、プロデューサーの企画をもとに、番組として具体化するのがディレクターである。こちらは現場の指揮一切に関わり、演技指導もこなす演出家であり現場の管理人でもある。予算関係はプロデューサーに任せ、ディレクターは番組に「こだわり」通すことがミッションだという。

これらプロデューサーとディレクターが個々の番組づくりに特化するのに対し、それぞれの番組を俯瞰して調整する役割を担うのが編成だ。視聴率から視聴者層を割り出し、他局の番組も考慮して、番組の割り振りを取り仕切る。

 

媒体価値=テレビの固有性

媒体の価値を知るには、テレビの歴史を振り返ることが必要だ。著者は、テレビが国民を広く社会的な事件の真っ只中に投げ込むような、独特の影響力を持ったメディアであることを歴史を振り返ることで確認していく。

例えば、1960年10月12日に起きた「社会党委員長・浅沼稲次郎暗殺事件の報道」は、まさにお茶の間にセンセーショナルな事件の現場をまるごと見せたのであり、かつて、遠いところから間接的に伝えられてくるという形でしか政治と関わらなかった人々が、テレビによって政治や社会的事件を同時体験することが可能になったと振り返っている。

著者は更に、公共放送としてのNHKが生まれた歴史を振り返ることで、テレビが社会に果たす役割を浮き彫りにするなど、議論を深めている。



この本についてひとこと