勝負師と冒険家 常識にとらわれない「問題解決」のヒント

勝負師と冒険家―常識にとらわれない「問題解決」のヒント

成果を“出し続ける”ためのコツ

7つのタイトル独占をはじめ、前人未到の偉業を今も達成し続ける棋聖、羽生善治と、5 Oceansなど、数々の単独ヨットレースで快挙を達成した冒険家、白石康次郎。将棋とヨットという全く異なる世界に生き、冷静さと破天荒さで対照的な2人にも関わらず、対談で見えてくるのは、厳しい世界でどうやって成果を出していくかという次元での共通点である。

いわゆるアスリートの自己啓発本的なものは山ほどあるが、この対談が決定的に違うのは、一瞬の勝負をどう勝つかではなく、長い競技の中で最大の成果を出すことに焦点があることだ。将棋のタイトル戦は丸2日間、ヨットレースだと2ヶ月間にも及ぶ戦いをどうコントロールするか。

僕が心に残ったキーワードには、「分からないことを恐れない」、「“あの時こうしていれば”は忘れる」、「あえてスピードを“落とす”べき時もある」、「人生全体でリスクのとり方を考える」などがある。目の前の仕事に没頭しがちで消耗している時、たくさんの気づきを与えてくれる。

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分からないことを恐れない

僕はコンサルティングの仕事をしているが、この業界では若いうちに体力的・精神的に無茶をする。そうやって3年目くらいまでは出力全開で成長曲線を駆け上がるが、本当に難しいのはその先だ。「こなせる」を「できる」にするには、無茶で何とかなる“問題解決”とは違う、そもそも何に答えるべきかの“問題発見”の能力の比重がより高まってくるからだ。分かってはいたものの、そのことを改めて意識させられた。

局面がよくなると単純化したくなっちゃうんですよ。わかりやすくして、先の見える展開にして、結果に結びつけたいと思うわけですね。悪いと思っていたらちょっといい加減とか、どうなるかわからないというような展開もけっこう選べるんで。そういう微妙な心理の違いとか、選択の違いが、少しの形勢の差を徐々に縮めていくということもあるんです。(羽生)

 

“あの時こうしていれば”は忘れる

自己啓発では、後悔するくらいなら何でもチャレンジしたほうがいいと教えるのがスタンダードだ。しかし、羽生と白石はこの「教え」が見逃していることの方にフォーカスする。あの時、そっちを選ばなかったのは当時の自分なりの判断だったはずだ。もしその判断が失敗だと思うなら、その失敗を学べばよく、選ばなかったことを悔やむ必要はない。

僕の勘では、「出ていれば、これだけリタイアしたんだから上位へ行ったよ」というのは違うかもしれないと思う。要するに、出られなかったことがラッキーだということになるわけ。準備不足のままあれに出てたら、僕、死んだかもしれない。(中略)やらなかったらもっとひどい場合がものすごくあるんだよね。そこの判断ってとても大切だよ。(白石)

 

あえてスピードを“落とす”べき時もある

さっきの若手コンサルタントの話じゃないが、無茶をするというのはある意味簡単なことだ。目の前のことにがむしゃらに取り組んでいる状態というのは、迷うことへの怠惰だといえなくもない。本当にそれでいいのか、他にやるべきことはないのか、それでずっと続けられるのか。そうした迷いをしっかりと受け止める力を意識して鍛えたかどうかが、本当の実力を左右する。

スピードを上げることなんていうのはわけない。セールをでかくすればいいんだから。いつも迷うのは、いつセールを下ろすかなんだよね。どこがこの艇のMAXスピードかを見極めるのが難しい。(中略)許容範囲、安全範囲をどのくらいに保とうとするのかが、ヨットレースでは一番大変です。船を走らせることよりも、どこまでスピードを抑えるかがポイントになってくる。(白石)

 

人生全体でリスクのとり方を考える

歳を取ると、転職にしても起業にしても、現実問題としてリスクをとりにくくなるものだ。だけど、大きなリスクも十年をかければ取れなくはないのではないか、という羽生の発想は人生設計を考える上で非常に重要なアイディアだと思う。

一回で大きなリスクを取るんじゃなくて、そのリスクは大きいんだけど、そのリスクをたとえば十年とか五年とかかけて、全部取り切るというようなやり方もあるはずなんです。(中略)年齢は確実に一年に一つずつ取っていくんだというようなことをきちんと認識して、それでリスクを分散させていくというようなことが、すごく大事なのかなという気がします。(羽生)



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