小説ヘッジファンド

小説ヘッジファンド (講談社文庫)

実務経験に基づく金融エンターテイメント

規制を免れるために投資家から私募形式で巨額の資金を集め、為替、債券、株式などの

金融市場で、空売りや裁定取引、デリバティブ(金融派生商品)といった高度な手法を

駆使して高利回りの運用を狙う投機的な投資信託の一種

これが本書扉に書かれているヘッジファンドの定義だ。

少し補足すると、投機的であるかはともかくとして、ヘッジファンドはすなわち、

マーケットの隙間(本来の適正価値からのわずかな乖離)を見つけて、もしくは作り出して、

そこに大量の資金(レバレッジを含め)を投入して「安く買って高く売る」投資集団を指す。

LTCMが引き起こした問題等、ヘッジファンドに対しては議論が喧しく、ファンドとは善か悪か、

All or Nothingで語られることが多いが、実際にディーラーや債券セールスとして長年の実務経験を持つ

作者は、うまく昇華してディールに関わる者たちの修羅場をエンターテインメントとして描ききっている。

 

ヘッジファンドのスーパースターたち

主人公は冴えない都市銀行に勤める銀行マン「岡田」だ。

彼は、幸運にも新卒入社で希望するディーリング業務に配属され、資金不足から大規模なディールは

できないものの、上司である「佐藤調査役」のもと、彼は同行初となる裁定取引ビジネスを開拓していた。

彼の着実な成果は、ある日、「デルタ・パートナーズ・ファンド・マネージメント」(Dファンド)の目にとまる。

引き抜かれた彼がDファンドのオフィスで目にしたものは、最新の機器と、数多のスーパースターたちであった。

彼らは、自らの才能に賭け、寝食も忘れてビッグディールに血眼をあげていた。

しかし岡田は、為替取引の波に乗り、輸出型企業や中小企業への影響を省みずに利益を稼ぐ、

このビジネスに疑問を感じていた。実は、彼の父親は中小企業の社長で、円高のあおりを食った張本人だった。

板挟みの思いでいた彼は、辞める決意でファンドのトップに議論を持ちかけるが、

そんな中、中途半端な思いを抱えた彼のビッグディールは、無情にもスタートする。

 

金融取引のエキサイティングさ

岡田は、悩みとは裏腹に目の前のビッグディールの面白さのめり込んでいく。

そして、その中で自分の仕事に対する彼なりの答えを見つけることになる。

自分が魂をこめて作ったポジションではないか。

最大の、そして最高の相場シナリオだったはずだ。

ディーラーとして、この利益だけはどんなことがあっても守ってみせるのだ。

岡田の中からすべてが消えた。視界に残ったものは、自分の保有している

ポジションの残存件数を示す数値と、モニターの中に展開する市場の動きだけだった。

わだかまりはあっても、ディールの面白さに身を投じ、プロとして体を張ることに集中している。

ディーラーならではもピリピリした空気感がたまらないシーンである。

彼がその後、自分のアイデンティティにどう決着をつけていくか、実際に本編を読んでほしい。

ディールのエキサイティングさとディールの知識を同時に得られる一石二鳥の一冊だ。



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