検証日本の敵対的買収

検証日本の敵対的買収―M&A市場の歪みを問う

敵対的買収に対する変化の兆し

2011年9月、登山用具販売のコージツに対するDRCキャピタルの敵対的TOBが成立した。日本国内の敵対的買収の成立事例は、2007年のソリッドグループホールディングスの案件に続き2件目と、敵対的買収を成功させることは困難であり、受け入れられにくいのが現状だ。一方で、僕は当案件の成立は、日本のM&Aにとってひとつのターニングポイントであると感じている。

これまで、株主が企業価値向上を武器に企業に提案の受け入れを迫ることは、難しいとされてきた。ところが、アデランスやテン・アローズ等、企業価値向上に背く経営者に“NO”を突きつける事例が出始めた。そして、本案件でも、DRCキャピタルの提案にコージツが反対意見を出す中で、株主は経済合理性を比較衡量し、結果としてDRCキャピタルの提案が評価され、当敵対的TOB案件は成立することとなった。

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敵対的買収を成功に導く

もちろん、今もって敵対的買収を成功させることが非常に困難である事実には変わりはない。顔の見えない無数の個人株主を味方につけるには、経済対価を魅力的に設定することが何より重要になる。

しかし、その場合も敵対的買収者への感情的な反発が起きうるし、また、大株主が存在する場合には、経済対価以上に、彼らが賛同し易い利害構造かどうか(現株主との関係が悪化しないか、世間に悪印象を与えないか等)に配慮しなければ、現実的にはなかなか味方にはついてもらえない。反対に言えば、敵対的買収に打って出る場合には、対価の設定、既存株主・取引先との調整、市場への情報発信などの複雑なコミュニケーションマネジメントが成功のカギになってくる。

ただ、残念ながらこうした“攻め”の観点から敵対的買収を取り扱った本は、ほぼないと言って差し支えない。買収を仕掛けられる側の不安な気持ちに応える、買収防衛策の導入支援ばかりだからだ。そうした中で、本書は被買収者の不安に寄りかからず、客観的に敵対的買収を分析しており、“攻め”の企業にとっても示唆の多い貴重な1冊になっている。

 

敵対的買収を成功させる3つの教訓

本書には、企業経営者のインセンティブ構造分析や、日本の株式構造の定量分析など論点別レポートと、敵対的買収や買収防衛策の具体的な事例分析が豊富に掲載されており、どれも興味深い。その中でも、個人的に特に参考になったのは、王子製紙による北越製紙に対するTOBの克明な記録である。この記録から導かれる教訓は、大きく3つある。

 

試練の先にある未来

M&Aと言えばIB(投資銀行)の得意分野だが、こと敵対的買収の可能性も覚悟した“攻め”のM&Aになると、上記のような手練手管、戦略性がカギになってくるため、経営コンサルティングの領域に入ってくる。僕自身、日本を変えるひとつの手段として、“攻め”のM&A支援は軸のひとつにしたいと考えている。

“攻め”のM&Aは、たとえ失敗したとしても、買収者・被買収者の両社に「妥協を許さない経営判断」を強いる。このガチンコのプロセスを超える中で、買収者・被買収者のレベルが一段と高まっていくことを期待している。皆さんにも、是非“敵対的買収”の意味、功罪などについてアイディアをもらい、一緒に議論を深めたい。



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