リクルート「創刊男」の大ヒット発想術

リクルート「創刊男」の大ヒット発想術 (日経ビジネス人文庫)

“論”ではなく“術”としての新事業のつくりかた

イノベーション、新市場の開拓、ビジネスモデルの創造・・・。こうした言葉は、いまや夢が叶う便利な魔法のようにそこらじゅうで耳にするようになった。しかし、イノベーション、イノベーションと言う人に限って、イノベーションとは縁遠いことの方が多い。当たり前だが、イノベーションの理論を学んでも新規事業部をつくっても、イノベーションは起きない。じゃあ、どうすりゃいいのか。実は、それを教えてくれる人がいる。

リクルートで「とらばーゆ」や「フロム・エー」「エイビーロード」「じゃらん」など、今日のリクルートを代表する数々の事業をつくってきたヒットメーカーくらたまなぶだ。彼は、イノベーションなんて思考停止ワードをいっさい使わずに、「腕まくり」して、風呂にも入らず、事業を生み出すための具体的な発想と行動を実践し続けた。そんな彼の経験がつまった本書は、なにかを生み出したいと考える人には貴重な1冊だ。

リクルート「創刊男」の大ヒット発想術

消費者としてもプロをやっているか?

今から新事業を作るということになったら、あなたならまず何から手をつけるか。最近のトレンド調査や先進企業のベンチマーク、自社の強みの整理など、新事業を具体化するための材料を集めて、「うーん」と悩んでいたら危険信号かもしれない。

著者は「いい商品をつくるためには商品について考えてはいけない」と言う。これは禅問答ではない。プロダクトアウトではなくマーケットインが大事ということだ。もちろん、マーケットインという言葉自体は飽きるくらい聞いたことがあるはずだ。でも、「マーケットインだ、うーん」と悩んでいても何も変わらない。どうするのか。

著者の流儀は、寝て、起きて、食べて、飲んで、働いて、遊んで、ちゃんと生活することだ。努力して、ちゃんと生活する。やったことのないことにトライし、気になることは徹底的に調べる。おいしいレストランはどこか?でも、どうやったらかっこよくスーツを着こなせるか?でもいい。マーケットインについて考えるくらいなら、受け手として「なんでだろう」を感じる力を鍛えよう。

 

つきあいたい恋人として接しているか?

あなたなら、好きな人をどうやって口説くだろうか。きっと、その人のことだけを考えてラブレターを書いたり、告白したりするはずだ。しかし、これが買ってもらいたい消費者ということになると、なぜかこうなっていない。30~40歳代の主婦層、裕福なシニア層、独り暮らしのサラリーマンのような具合に。でも「「集合名詞」は口説き落とせない」。著者のこの指摘には、目からウロコが落ちた。

えっ、そう言われても1人の消費者を相手にするわけではないし・・・。でも、考えてみれば1人を口説けないものでみんなを口説けるはずがない。1人が口説けるようになったら、もっとたくさんの人にもウケるように考えればいい。だから、まずは1人のことをとことん深~く知ること。

著者は、忌憚のない意見を聞くには家族や親友などの「親しい人」、自分とは180度違う意見を聞くには「嫌いな人」「苦手な人」「日頃会話をしない人」と様々な人にアポを入れ、とことん話を聞いた結果を「とらばーゆ」につなげていった。

 

恋人のホンネをどう聞き出すか?

でも、どんな人とつきあいたいか、好きな人にホンネを教えてもらうにはどうすればいいのか。著者が教える大事なことは、①ホンネが隠れているポイントと、②ホンネを引き出す聞き方の2つだ。

①ホンネが隠れているポイント

好きな人に「どんな人とつきあいたいか教えてください!」と聞いてみる。良くある答えは、「面白い人」「一緒にいて楽しい人」「私のことを考えてくれる人」。こういう希望に沿おうとすると、より面白く、より楽しく、より思いやりのある「足し算」になる。

でも、この「足し算」のやり方は、よっぽどのイケている男でないかぎり、どんぐりの背比べだ。ビジネスでいえば、ヴィトンのような高級品やアップルのようなブランド品なら相手も納得するけど、並みの商品が見た目や性能を改善したところで、タカがしれているのではないだろうか。

だから、目をつけるべきは「引き算」(「不」のつく日本語)だという著者の指摘は鋭い。

二四時間動き回りながらたいていの人が日々感じているのは、「不満を提供しないでほしい」という一言につきるのではないだろうか。「きめ細かなおもてなし」を足し算する商品は大歓迎だ。けれど、「余計なお世話」を徹底的にはぶいた引き算商品の方が、それ以上にいつも必要とされているんじゃないかなと思う。

②ホンネを引き出す聞き方

「どんな人とつきあいたいか教えてください!」と聞いて、答えが返ってきたらまだましだ。そんなこと聞かれても、「これ」という答えはないという人も多いのではないだろうか。

じゃあ、どうやったら言葉にはできない相手の想いを汲み取ることができるのだろうか。コツははじめに「体験」を聞くことだという。

「気持ち」を聞くのは最後。単刀直入に切り出して何度も失敗した。試行錯誤を繰り返していくうちに、「そうか、人間は三つの層でできているんだなあ」とわかってきた。外側にプロフィールがある。いちばん奥底に地球のマグマのような「ホンネの気持ち」がある。その中間にもっとも大きく広がっているのが「体験」という層である。

この「体験」を聞くことができたら、きっとそこに相手に想いを語らせるヒントがある。「なんでそうしたんですか?」 そこで「よくぞ聞いてくれました」と言わせたら勝ちだ。

 

夢の大風呂敷をきちんと広げたか?

このように、消費者のニーズを掴む方法だけでも語りつくせないくらい発見が満載だが、本書には、ニーズを事業に仕立てるためのポイントがまだまだぎっしり詰まっている。ここですべてを紹介できないのが残念だが、これだけは最後に書きとめておきたいと思う。それは、まず「ロマン」、そして「ソロバン」、それを支える「ジョーダン」という3つのバランスだ。

「ロマン」は事業で実現したい夢、「ソロバン」は事業として成立するための計画(数字)、「ジョーダン」は自分が絶対に成し遂げるという意欲のこと。失敗ができなくなればなるほど、「ソロバン」勘定ばっかりが先走る。「ソロバン」に集中すればするほど、事業は「ジョーダン」のない絵に描いた餅になる。

「ロマン」は青臭いが、青臭い「ロマン」にしか「ジョーダン」のこもった「ソロバン」は作れない。だから、著者はいつになっても「ロマン」をともに語ることを忘れない。恥ずかしがらない。飲み屋でグチじゃなく夢を語る。ブレストでも大風呂敷を大歓迎する。これをとことんやりきるっていう思いが、新事業を生めるか否かの決定的な違いのような気がする。

メンバーは現場での体験をどんどん語ること。その一つひとつの「物語」が貴重財産となる。損益計算書にも貸借対照表にも表れない財産。その「物語」が積み重なって、「夢」に向かう階段となる。事業責任者が数字に責任を持つのは当たり前だ。しかしソロバンはロマンの手段でしかないのである。



この本についてひとこと