総子化 生活動力2013

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一億「総子化」時代

日本では親が健在な人(=子供)の数は実に8,700万人。親と子供が共存する年数もなんと60年(いずれも2010年時点)。全人口においても、一生においても、「子供」が多くを占めるようになっている。博報堂生活総合研究所は、この「総子化」の傾向に着目し、「総子化」だからこそ生まれる生活者心理を分析し、新しい消費者像に合わせた45のマーケティング・アイディアを抽出している。

ともに自立した親と子の関係はどう変わるのか。長い時間、子供でいられる人々は何をし出すのか。こうした人々の新しい“生き方”をサポートするところに、次なるビジネスの可能性が潜んでいる。同研究所は、80年代から消費者の定点観測を行い、“分衆”“ピン消費”、“街の生態学”など、その時々の消費者像を浮き彫りにする数々のコンセプトを提唱してきた実績を有する。いずれの著作も今読んでも通じるものがあり、マーケティングに関わる人は一通り読んで損はない。

 

生活者心理の3つのトレンド

「総子化」とは一体、僕ら生活者の実態にどのような変化が生まれることにつながるのか。生活総研のメンバーは、ブレストを繰り返しながら、最終的に3つの大きなトレンドへ収斂させた。

不透明なこの時代を生き抜く子供が、長生きする親と長く共生する戦略を選ぶのは合理的だ。そこで生まれるのが「一族発想の強まり」。そこでは、親と子の高度な機能分担が行われ、「男女の区別なく働ける者が働き、そうでない者が家事や育児あるいは地域との交流を行う」という「一族の総資産化」が重要なキーワードになる。

これからの親子関係は、大人の親に若い子供だけでなく、「中高年チルドレン」が“当たり前”に。人生の酸いも甘いも知った親子は、仕事でもプライベートでも物事の豊かさ、質の高さを求める。じっくり選ぶ“本物”消費や、語り合う“仲間”としての親子関係などがキーワードになる。

子供にとってこれまでは早く独り立ちすることが親孝行だったが、60年も子供でいられる。これからは“子である自由の”意識が浸透していく可能性がある。“子である自由”は、巣立ち・帰巣の柔軟化・自己決定化、親のすねかじりの積極肯定、企業や転職などのチャレンジの促進など、子の生き方のキーワードに結びつく。

 

「総子化」時代のマーケティングモデル

この3つのトレンドを踏まえ、本書後半ではマーケティング施策の可能性を45の具体的なアイディアに落とし込んで紹介していく。これらのアイディアは、博報堂の名をかけているだけあってどれもヒトヒネリ効いていて、かつ生活者の生活シーンが見えるところまで考え抜かれている。ここでは、個人的に特に心に残った5つのマーケティングモデルを紹介しておきたい。

親・子・孫3世代家族や、子夫婦とそれぞれの両親の3世帯家族など、前述したとおり家族構成が“一族化”すると、ひと家族の中にはたくさんの働き手がいることになる。すると、ワークシェアして余暇を増やす家族や、2~3人の安定した収入を背景に一発を狙って1人が起業してみようというトレンドが起こり得る。その時には、大家族向けのレジャー提案や、起業しやすい在宅起業の支援などがウケるかも。

成熟した親子は、ともに消費に対して豊さや、質の高さを求めやすい。趣味の似てきた親子が2人で使い回せ、最後には親から子に使い継ぐことのできる高級品やビンテージ品などの100年使える商品が好まれるようになるのではないだろうか。

親と共存する子供たちは、親が持つスキルや経験を世に広める媒介者になれる。「ウチの親は着付けができます」、「ウチの親は書道ができます」のように、親をマネジメントして新たな価値を広めるソーシャルネットワーキングのあり方が出てくるのでは。

シニアな子供には、シニアな子供なりの悩みというものがある。親が子供の授業を参観する父母会のように、子供が親の老後生活を参観する「逆父母会」や、親の世話に関する悩みを共有したり、勉強を行うような子供たちの教育の場に対するニーズが高まるのではないか。

 

博報堂の発想法に学ぶ

目の前の課題に取り組んでいると、改善はできても構造を転換する発想はなかなか出てこない。世の中はどう変わっていくか。例えばシニア化がある。シニア化だけだと漠然としているが、シニア化が生むトレンドを想像したら何かチャンスはないか。元気なシニアがいる孫の生活は?数が減った若者同士の横の連携は?そんな“トレンド発想”をもう一方で持っておくと、発想の枠が広がることを本書は教えてくれる。

しかし、どうしたらメガトレンドに気付くことができるか。ポイントは、「ファクトからもっと自由に発想しよう」にあると思う。本書で使われているデータは、国税調査や国立社会保障・人口問題研究所の誰にでも手に入る一般的な人口データだ。データが示す“傾向”をリアルな“トレンド”に読み替えるには、想像力と飛躍が必要になる。

そのためには、元リクルートのくらたまなぶが「ちゃんとふつうに生活すること」と言うように、自分自身が会社員としてだけでなく、老若男女・主婦・学生など色々な生活者として、様々なものに接することで、いざというときに“イタコ”のように見知らぬ彼ら/彼女らを代弁できる想像力を身につけることが重要になる。

*生活動力シリーズは青山ブックセンターで販売。amazonでも取扱いはあるもよう。



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