社員をサーフィンに行かせよう

社員をサーフィンに行かせよう―パタゴニア創業者の経営論 Let My People Go Surfing: The Education of a Reluctant Businessman

あなたの会社、ミッションが機能してますか?

本書は、アウトドアブランドの代表格であるパタゴニアの創業者でありオーナーである著者が記した創業記である。

パタゴニアの面白さは、彼らのミッションと手段としてのビジネスがうまく調和しているところにある。

経営論として、ミッションから全社戦略、機能戦略へと、一貫した価値観を背骨として通すが重要だというのは尤もだ。

しかし、これまでのコンサルティング経験からすると、ミッションを大々的に謳っている有名企業でも、

ミッションがお題目になっていたり、機能戦略が目先の火消し目的になっていたりという状態は案外よくある。

ミッションとビジネスの調和とは、具体的にどのような状態なのだろうか。

パタゴニアの事例は、そうした悩める企業にとってひとつのモデルを示してくれている。

 

ミッションについて語れますか?

はじめに、パタゴニアのミッション・ステートメントを紹介しよう。

最高の製品を作り、環境に与える不必要な悪影響を最小限に抑える。

そして、ビジネスを手段として環境危機に警鐘を鳴らし、解決に向けて実行する。

パタゴニアも、この理念に辿り着くには、相当の紆余曲折を経たようだ。

三十五年かかってようやく、なぜ自分がビジネスに携わっているのかを悟った。

確かに、環境活動への寄付は行いたい。だがそれ以上に、パタゴニアを、

ほかの企業が環境的な経営と持続可能性を探るにあたって手本にできるような会社にしたい。

ちょうど、私たちのピトンやピッケルがほかの道具メーカーの手本となったように。

ミッションを明確化するポイントは、ルーツ(何をしたいか、世の中にどんなメッセージを発信したいか)にこだわること。

自らのアイデンティティに悩み続けることで、はじめてミッションが“自分事”として語れる言葉になるのではないだろうか。

 

ミッションとビジネスをつなぐカギとは?

パタゴニアの「環境的な経営と持続可能性」は、ビジネスの中でどのように体現されるのだろうか。

その答えは、同社が製品をデザインする上での現場への問いかけに集約されるだろう。

機能的であるか、多機能であるか、耐久性はあるか、顧客の体にフィットするか、可能な限りシンプルか、

製品ラインナップはシンプルか、革新であるか、発明であるか、グローバルなデザインか、手入れや洗濯は簡単か、

付加価値はあるか、本物であるか、芸術であるか、単に流行を追っているだけではないか、中心客層のためにデザインしているか、

下調べをしたか、タイムリーであるか、不必要な悪影響をもたらしていないか。

これらをクリアできるプロダクトであれば、納得して世に問える。そういう基準を持つことがミッションとビジネスを

つなぐひとつのカギとなっているわけである。

 

“使える”ミッションとは?

しかし、もちろんこれらの基準も、社員全員が“使える”状態になっていなければ機能しない。

革新・芸術と言われても、机に向かってうーんと悩んでいればどこからかアイディアが降ってくることなどないのだ。

ここで本書のタイトルの意味が分かってくる。

つまり、社員が(勤務時間中であっても)自由にサーフィンに出かけられるのは、ひとりの顧客として、

アウトドアのファンとして、環境に関わる人間として、何か革新か、何が芸術かに気づかせるための必要投資なのである。

マニアが作り手になることで、ユーザーの望んでいた製品・サービスは生まれやすくなる。

もちろん、あまりにマニアックだったりして、中心顧客全体のニーズを満たすものにならず、失敗に終わることも多い。

しかし、現場が世の中に問うべきものを主体的に判断できる組織は、イノベーションのすそ野が非常に広い。

 

“普通の企業”でできるWAYマネジメント

このようなマネジメント方法は、伊丹教授が「場の論理」と呼んでいるが、規律が緩いように見えてその反対なのである。

こうした企業のマネジメントは、ビジネスの方向性を描いたり、ガバナンスを設計する以上に、そのミッションの伝道に注力する。

どういう行動が正しいのか、社会人として何を目指していくのか。いわゆるWAYマネジメントである。

そのWAYの中で、現場の判断は社員に任せることで、マネジメントの力にレバレッジをかけるわけである。

WAYマネジメントは、Appleのスティーブ・ジョブズを思い浮かべれば分かるように、カリスマがいると機能しやすい。

一方で、カリスマがいない企業にとっては使えないと思われがちな手法ではある。

しかし、パタゴニアは創業者が引っ張っているという感じではない。そこにヒントがあるのではないだろうか。

実際、パタゴニアはカリスマ性だけでなく、しっかりとした“仕組み”でWAYを裏付けている。

勤務中にサーフィンに出かける突飛な企業などと一蹴せず、彼らの声に一度耳を傾けてみる価値はある。



この本についてひとこと