百万ドルをとり返せ!

百万ドルをとり返せ! (新潮文庫) Not a Penny More, Not a Penny Less

実は実体験

著者のアーチャーは、世界中で読まれるエンターテイメント小説界の巨匠だが、その昔は最年少議員として国政を執ったこともあるマルチタレントなエリートである。そんな彼も、実は絶対に儲かるという話に乗せられて、全財産を失う失態をおかした経験を持つ。カナダの会社に100万ドルを投資したのだが、翌年にはその株が紙くず同然だと知らされた。

しかし、彼がただ者でないのは、無一文になりながらも、これをネタに一級の小説に仕立ててしまった。実は、この物語こそ、アーチャーが失敗を大逆転に変えた物語なのである。舞台はロンドン。悪徳詐欺師のハーヴェイ・メトカーフに、アーチャーと同様の手口でカモにされた4人の見知らぬ者同士が、総額100万ドルをとり返すために立ち上がる。

 

頭脳派エンターテインメント小説

まず被害者の4人の設定が面白い。オクスフォードの数学教授から、イギリスの貴族、画廊の経営者、セレブリティ専門の医師まで多種多様。彼らはメトカーフへの復讐を誓い、1人1案ずつ持ち寄って、それぞれの特技を活かしたトリックで大胆にメトカーフを出し抜くのだが、あくまで4人は素人集団。オーシャンズシリーズやミッションインポッシブルさながら、危うい手口に読み手がハラハラさせられる。

画商のジャン=ピエール発案の、偽の絵画を買わせる作戦など、本当に危なっかしい。メトカーフに後をつけられ、トランシーバーからの指示で目的地へ辛うじて逃げるまで、息ができない。このハラハラ感を計算して作り上げるアーチャーの頭脳には惚れ惚れしてしまう。

 

キャラづくりのうまさ

もうひとつの魅力は、何と言っても4人のリーダー、スティーブン教授の格好よさだろう。本書の原題は、”NOT A PENNY MORE NOT A PENNY LESS”。金をとり返すとはいえ、必要以上にだまし取るのではなく、きっちりと100万ドルを頂戴するのが今回の目的。チームの会計役も担うスティーブン教授は、作戦に費やした経費を差し引いたネット・プロフィットを1ペニー単位で管理するのだが、その鮮やかな計算力と、クールな顔の下に見え隠れする作戦への静かな情熱に、きっとあなたも魅了されてしまうに違いない。

何しろアーチャーは、面白い人物を描かせたら右に出るものはいない。大ヒット映画を見るつもりで、是非ポップコーンを片手に読んでもらいたい。



この本についてひとこと