1984

一九八四年[新訳版] (ハヤカワepi文庫) 1984 (Signet Classics)

アメリカPRISM問題とオーウェル的悪夢

2013年、中央情報局(CIA)及び国家安全保障局(NSA)の局員だったエドワード・スノーデンは、アメリカがPRISMという検閲システムを用いて国民の個人情報を自由に閲覧できる状況にあるとリークした。この暴露によって亡命を余儀なくさた彼は、亡命先のロシアのメディアに対し、こう語っている。

People will see, in the media, all of these disclosures. They’ll know the lengths that the government is going to grant themselves powers, unilaterally, to create greater control over American society and global society.

国家の安全保障と個人の自由がトレードオフになる側面があることは理解しつつも、現代国家の行き着く先が、このような形での個人の自由収奪である事実には落胆を禁じ得ない。しかし、実は1949年の段階であたかもこの現実を見通していたような小説がある。それが、「オーウェル的悪夢」という言葉を生み出したジョージ・オーウェルの『1984』だ。

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Surveillance designed by Luis Prado from the Noun Project

監視国家INGSOC

舞台はとある架空の国。全体主義(INGSOC=English socialism)国家で生きる、ある男の物語である。その男は真理省の記録局という国家機関に勤めており、国益に反する歴史記録の内容を改竄する仕事についていた。この国では、国体維持のためには“当たり前”の行為なのである。

この国では更に、「テレスクリーン」というテレビのような機器で、国民を監視している。この機器は、政府の都合でプログラムを発信するだけでなく、視聴者の音声や映像を受信できる。したがって、「全市民、或いは少なくとも要注意に値する市民は警察当局による一日二十四時間制の監視下に置くことができる」というわけだ。

こうして国民は「国家の意志に対して完全な服従を強制する許りか、あらゆる問題に対して完全な意見の一致を強制する可能性まで、今や初めて存在するに至った」のである。

 

思考のコントロール

さらに、この国では新語法(newspeak)という言葉の強制によって、国民を思考レベルでコントロールする。新語法とは、簡単に言えば、英語から同義語や反対語を極端に削除し、一つひとつの単語の定義を明確に規定した言語である。例えば、「うれしい」の対義語は、「悲しい」や「いやだ」などがあり得るが、新語法では「うれしくない」の1語に統一してしまう。

やり方は単純だが、これは僕らの思考を確実に狭め、一定の方向付けをする巧妙な手法である。このような思考操作の中で、政府は架空の戦争相手国を設定し、“分かり易い”善悪二元論を提示することで、国民の反発をそらすことに成功している。また、国民にそうした敵国やゴールドスタインという反逆者に対する憎悪を義務付けることで、憎悪の的が習慣的に政府から逸れるような仕組みまで導入する周到ぶりだ。

 

『1984』はフィクションにすぎないか

男は、こうした政府のやり口に疑問を抱き、ついに反乱を試みるのだが。この物語の結末は、冒頭で紹介したPRISMやスノーデンを思い浮かべながら確認してみてほしい。『1984』の舞台設定は、確かに極端なところがあるかもしれない。しかし、今日のアメリカの状況を見るにつけ、必ずしもそう片づけられないリアルさを感じる。

自由とは二足す二が四になると言える自由だ。これが容認されるならば、その他のことはすべて容認される。



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