点と線

点と線 (新潮文庫)

モノクロのミステリー

僕が初めて松本清張の本を読んだのは、中学生の時だ。当時、父親から薦められたこの本を、今改めて読み直してみると、初めて読んだときに感じた、独特な印象を思い出した。心理描写が少なく、全体的に淡々としたモノクロな世界観で、文章としての起伏が少ない。しかし、その文体がかえって犯罪のトリックを際立て、物語全体に緊張感を与えている。そんな、恋愛あり友情ありの流行りの劇場型ミステリーとはまた違った面白さがある。

 

時刻表トリックを解け

ストーリーは、ある男女の情死から始まる。料亭「小雪」の女中が、東京駅で馴染みの客を見送っていると、向かいのプラットフォームに同じ料亭で働くお時が男性と夜行特急列車「あさかぜ」に乗るところを見かける。その数日後、お時と男性(佐山)が、香椎の海岸で死体となって発見されたのだった。警察はありふれた情死で片づける方向だったが、第三者の影を感じたベテラン刑事 鳥飼重太郎は、その直感をたよりに、関係者のアリバイを根気強く確認していく。

鳥飼刑事は、粘り強い調査によって容疑者を突き止めたものの、一番の論点である「九州と北海道とを隔てる地理的・時間的距離をどのように埋めるのか」という謎に突き当たる。容疑者のアリバイから考えて、どうしてもその距離を移動する時間的余裕がない。その時、鳥飼は列車の時刻表に小さな「穴」があることに気付く。

 

トリックを超えた面白さ

時刻表を使った時間トリックは、ミステリーやサスペンスに慣れている人には今やお馴染みの手だ。その点、この物語のトリック自体が、今の読者をあっと驚かせるような効果は持ちえないだろう。しかし、松本清張ストーリーにおいては、もともとトリックを必要以上に巧妙に設定することに、そこまで力点を置いていなかったのではないかと思う。だからこそ、今も鳥飼刑事の推理劇が長く愛されているのだと思う。

また、冒頭でも触れた通り、松本清張の物語は犯人の動機という曖昧なものも排してしまう。そうして派手なトリックや分かりやすい動機でオチをつけることを避けることで、犯人の思惑やその裏にある組織的な闇、死んだ者・残された者の寂寥感を浮き立たせることに成功した点が、この物語の最大の魅力だと思う。



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