IPO市場の価格形成

IPO市場の価格形成

本書は、IPO(株式公開)時の価格とその後の市場株価のトレンドについて、真正面から研究した1冊である。

IPOの際には、アンダーライター(売出にかかる引受者)は企業価値評価(Valuation)によって、

対象企業の理論株主資本価値(株数で割れば株価となる)を算定し、公開価格(証券会社が決定する基準価格)を決定する。

公開価格が本来つき得る市場価格を下回って決定された場合、調達資金額が不用意に減少する可能性があるため、

IPOをする発行企業からすると、公開価格は市場価格(理論的には企業の実態価値とイコール)を上回っていることが望ましい。

しかし、実際のIPOでは市場価格が公開価格の数倍になる(つまり、結果的に公開価格が市場価格を下回っていた)ことも珍しくない。

このような公開価格と市場価格の乖離には、どのようなメカニズムが働いているのだろうか。

本書はこの謎を解くべく、斯界の専門家が最新の研究動向を考察した意欲作である。

 

結論を簡単に言えば、ステークホルダーの力関係によって価格の均衡点(ナッシュ均衡)が定まるということではあるが、

発行企業、幹事証券(アンダーライター)、投資家など、多数の力関係のバランスで決まるため、単純なフォーミュラにはならない。

しかし、本書では色々なシチュエーションのパターンで分析を行っており、具体的にどのようなところに落ち着きやすいのか

理解しておくということは、十分有用なことだと思う。

 

例えば、発行企業は、発行にかかるコスト(公開価格と初日の株価の差=間接コスト、引受手数料=直接コスト)を最小化し、

調達資金を最大化するインセンティブが働きやすいことは容易に想像がつく。

一方、アンダーライターにとっては、売れ残りを避けたいというインセンティブがあり、

また、発行企業や投資家に関する情報が不完全であることが、価格設定をコンサバティブにし易い状況を作っている。

この点は投資家も同様で、後に紹介する公開価格決定の方式において、低めの価格で応募する動機となる。

更に、発行企業の経営陣が大株主(オーナー)の場合、発行価格と市場価格のアービトラージ余地がアンダープライシングを誘発する。

このように、ステイクホルダー間にはさまざまなインセンティブが働いており、力の強さがプライシングを左右しているわけだ。

 

しかし、そもそも論に立ち返れば、IPOにおけるプライシングは発行企業の本源的価値を表したものであることが望ましい。

そこで後半は、公開価格決定の方式(ブックビルディング方式、入札方式、固定価格方式)について、そのPros/Consを検証し、

パワーバランスの中で最も公正、かつ効果的な資金調達を可能にするために検討すべき課題を論じている。

日本においては、1997年にブックビルディング方式が採用され、多数派となっている(入札方式との選択が可能)。

ブックビルディング方式とは、機関投資家の意見や投資家の需要をベースに価格を決定する、いわば需要積み上げ方式である。

この方式は、オークション的な入札方式や、Valuationでいう類似会社比準法に基づく固定価格方式に比べ、

アンダーライターの裁量が大きく、価格の決定や株式の配分プロセスが不透明である。

一方で、実績のある大手証券会社がアンダーライターを務めるケースでは、アンダープライシングが比較的小さいという結果もある。

ちなみに、ブックビルディング方式が主流のアメリカにおいては、GoogleやMorningstarが入札方式を用いるなどの動向も見られる。

 

このあたり、読者が発行企業、証券会社、投資家である場合ごとに、本書から受け取るメッセージは違ってくる。

僕自身はIPOに関わる機会はあまりないので、パワーバランスによる価格形成のプロセス自体を楽しんで読んだ。

あなたはどんな立場で読むだろうか。マニアックだが、このテーマをここまで本格的に論じたものは珍しいので、

気になる方は是非手にとってもらいたい。



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