リフレが日本経済を復活させる

リフレが日本経済を復活させる

リフレ政策の効用と限界がよく分かる

アベノミクス最大の柱となっている金融政策、それがリフレーションである。この政策の是非については、専門家の間でも意見が割れており、決め手となる結論はまだない。では、現状のリフレーション政策に対する論点とは、一体どのようなものだろうか。そんな時はリフレ派論客の著作に直接当たるのが一番だ。本書は、リフレ派の代表格である浜田宏一をはじめ、岩田規久男、飯田康之、若田部昌澄など、主だった論者が執筆しており、リフレ派の主張を1冊で外観できる。

なぜデフレは貨幣現象なのか、なぜ金融政策によってデフレから脱却できるのか、なぜその過程で生産と雇用が増大するかを、論駁のないように明らかにする

このように宣言する本書だが、その主張を丁寧になぞっていくと、リフレ政策にどこまで期待していいのか、その効用と限界が浮き彫りになってくる。

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そもそもリフレーション政策とは何かを知る

リフレーション政策を知る上で、まずはじめに、白川前日銀総裁がデフレは「不況の結果」だとしたのと対照的に、「マネーサプライの結果(貨幣現象)」だとする立場を採るところに特徴がある。この背景には経済学の「貨幣数量説」があり、リフレの急進派ほどこの理論に決定的に依存している。

貨幣数量説とは、ごく単純に言えば貨幣のトランザクション総量と経済規模とが一致することに基づく理論で、“貨幣(M)×流通速度(V)=価格(P)×取引数(T)”で表される。これらの変数のうち、短期的に変動しづらいT(≒生産量(Y))と、Vを一定と仮定すると、MこそがPを決定づける変数であるというのが、リフレ派の根拠になっているわけだ。

この理論を背景に、リフレ派は大きく3つの政策がデフレ及び景気にプラスの効果があると主張する。

●日銀がインフレターゲットを設定し、インフレ実現にコミットすることで期待インフレを形成する
●マネーサプライを大幅拡大し(異次元の量的緩和)、財と貨幣の相対価格である物価を上昇させる
●金利を下げることで貸出を増やし、投資や消費を刺激する

 

リフレ派が答えきれていない2つの疑問

このようなマネーサプライの調整による経済効果は、著者たちも言うとおり、マクロ経済学を知っていれば理論的には“アタリマエの話”ではある。例えば、財・サービスの本質的な価値が変わらないのに世の中に貨幣が大量に出回れば、貨幣あたりの価値はダイリューションが生じ(低下し)、結果、インフレが起きるというのは自然だ。

しかし、ここで大きく2つの疑問がある。ひとつはマネーサプライの操作とインフレーションは直接的な因果関係で結びついているわけでなく、実際には段階的な波及経路を辿るのだが、彼らが想定しているようにスムーズに波及するかという問題。もうひとつは、仮にマネーサプライの操作によってインフレや円安誘導ができたとして、それが実体経済にも波及するのか(デフレ対策と不況対策は似て非なるものではないか)という問題だ。著者たちは本書の中でこれらの疑問に部分的に対応しているものの、その理路は十分でないように思う。

 

マネーサプライの操作で本当にインフレは起きるか

ひとつめの疑問をより詳細に言えば、①量的緩和で金融機関の資金を厚くしても、その資金が金融機関から企業ひいては消費者に回るのか、②仮に回ったとして企業や消費者が投資や消費に積極的になるのか、という2つの疑問に分解される。

①は日本企業の内部留保の積み上がりを見れば、今日の日本企業は資金が足りないのではなく、資金があっても投資できていない行き詰まりの状況にあることが分かる。また、業績が低迷する中でリストラを極力避け、日本企業は労働者の賃金を抑えることで耐えてきた中で、仮に企業の収益性が高まっても賃金(=所得)を高める方向には働きにくいのが実態ではないか(そもそもインフレに対しても実質賃金の引き下げ効果が期待されている側面がある)。

こういう状況下では、供給資金はそのまま金融機関の中で寝てしまうか、フィナンシャルマネーに流れ、②も積極的な投資や消費にはなかなか結びつくとは想定できず、預金に回ってしまうだけではないか。結果、インフレは相当起きづらく、起きたとしても一部資産のバブルが生じる程度ではないか。

 

リフレ政策によるインフレ効果は実体経済に波及するか

ふたつめの疑問は、リフレ派の論者が貨幣数量説に基づいてインフレを起こすだけでなく、それが実体経済の改善にもつながるというロジックに対する疑問である。

リフレ派が、インフレを起こすことが実体経済の改善につながると主張する根拠は、物価が上昇すると失業率が低下する関係(フィリップス曲線)が広く観察されることにある。彼らは、これをもってリフレによる物価上昇が失業率の低下に効くというわけだ。しかし、物価と失業率の“相関関係”ではあっても、物価が失業率に働くという“因果関係”とは違う。強制的な物価上昇を皮切りに、企業が値上げし、収益が向上し、雇用が改善する流れは現実的に想定しづらいのが正直なところだ。

消費が冷え込んでいる中で価格を上げれば、いくら2%のインフレになっていたとしても消費者はインフレだからOKということにはどうしてもなりにくい。著者たちは冒頭で、リーマン・ショックの日本経済への影響を例に、経済理論の重点は実物ベースから金融ベースにシフトしたと主張するが、僕らが今直面している問題もそうだと考えるのは難しい。

 

リフレーション政策からの教訓を生かす

このように、リフレーション政策は(ここでは言及できなかった期待インフレへの働きかけやインフレターゲットへのコミットメントなども含め)様々な策によって、デフレ脱却に一定の効果を持つ一方で、多数の“?”が存在するのが現実だ。(しかも、インフレでなく物価安定でいいという疑問も大前提にある。)これらの政策はあくまで実物経済がプラスに働くための素地を作るものであって、それ自体が実物経済を主体的に動かす力を持っているなら、世の中から不況はなくなってしまう。

リフレ派の急先鋒、浜田宏一のように「デフレの即効薬は金融政策」、「拡大的な金融政策が唯一の救済策」というところまで、リフレーション政策に期待するのは分不相応だと思うのだ。先に述べた経済効果の波及経路を機能させるには、企業の競争力強化が同時に必要だ。また、本書ではほとんど触れられていないリフレの副作用(国債暴落のリスクや、消費者に実感のない経済成長の害等)についてもより詳しい検証が必要である。

いずれにしても、本書を出発点にすることで、よりよい経済政策へのヒントが得られたこと、それが本書の最も重要なことだと思う。



“リフレが日本経済を復活させる” への6件のフィードバック

  1. clb_webmaster より:

    なかなかすべてを特定してお伝えすることは難しいので、
    コラムを書く上で、特に参考にした箇所をピックアップして
    お伝えすることで代えさせてもらえればと思います。

    ●金融政策の効果に関する9つの批判(P.36~)
    ●貨幣数量説の「パラドックス」(P.56~)
    ●経済学における貨幣数量理論の歴史(P.254~)

    この3つのパートを参照して頂ければ、
    コラムで言及した本書の骨子は掴めるのではないかと思います。

    • nanasi より:

      なるほど、ありがとうございます!
      さっそく借りてきたのでそこのページに特に注目してco_laboさんのコラムとあわせて読んでみますね。

      • clb_webmaster より:

        是非是非読んでみてください!
        気が向いたらで構いませんので、
        宜しければ感想を聞かせてくださいね。

  2. nanasi より:

    分かりにくくて申し訳ございませんm(__)m
    コラムで言及した部分をお願いします。

    リフレーションとは、なにかを知る。
    リフレ派が答えきれていない二つの疑問。
    マネーサプライの操作で本当にインフレは起きるか。
    リフレ政策によるインフレ効果は実体経済に波及するか。
    リフレーション政策からの教訓を生かす。
    の部分です。
    ほぼ全部ですね、お手数かけてしまい申し訳ないです 。

    co-laboさんのコラム楽しみにしております、こちらこそよろしくお願いします。

  3. clb_webmaster より:

    はじめまして。コメントありがとうございます!

    ご質問ですが、文献全体のページ数でしょうか(こちらは291ページです)。もしコラムで言及した箇所のページ数のことでしたら、どの箇所か教えて下さい。

    これからもよろしくお願いします。

  4. nanasi より:

    初めまして、夜分遅くに申し訳ございません。
    リフレが日本経済を復活させるという文献について大変興味がわいたコラムでした。
    お手数ですがもしよければ文献のページ数などおわかりでしたら教えていただきたいと思いこちらからコメントさせていただきました。

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