企業価値創造型リスクマネジメント

企業価値創造型リスクマネジメント―その概念と事例

リスクマネジメントと企業価値

フロントラインで戦っているビジネスパーソンにとって、「リスクマネジメント」と聞くと、バックオフィスのある部署が自分が知らないところでやっていることで、自分にはあまり関係のないことに感じるかもしれない。しかし、ファイナンスを少しでも齧ったことがある方ならお分かりの通り、企業の価値というのは「生み出された価値 × リスクテイクのコスト(割引率)」で算出される。つまり、いくらフロントラインで成果をあげようと、リスク(割引率)が高いと企業価値は小さくなる、というメカニズムなのである。企業価値を最大化する上で、リスク(割引率)の高低というのは非常に大きなインパクトを持っている。

しかも、リスクと一口にいっても、実はバックオフィスのある部署だけに任せておけばいいものばかりではない。ファイナンスの割引率というと、主に資金調達のリスクに焦点があたりがちだが、本質的には、その他にも競争上の圧力、需要動向、商品問題、M&A、不正会計等々、企業の競争力に関わる様々な要素が企業価値を左右するリスクになり得るのである。

本書は、そうした観点を踏まえ、受け身ではなく企業価値を積極的に高めるためのリスクマネジメント(リスク最適化:Optimization of Risk)を提唱している。リスクマネジメントなんて面白くないと思っていた方にも「目からうろこ」の、おすすめの1冊だ。

リスクと企業価値、企業資源の関係_上田和勇

リスクマネジメント概念の発達ステージ

リスクマネジメント理論を研究するカーネギー・メロン大学によると、リスクマネジメント(RM)の概念には5つのステージがあるという。

①初期段階:特定個人の経験に依存し、場あたり的な対応になりがち
②反復段階:RMの共通認識が生まれガイドラインが作成されるが、個人に依存
③定義付け段階:方法論が確定し、セグメントごとにRMが行われる
④管理段階:統合的管理が成立し、プラスのリスクについて分析が可能になる
⑤最適化段階:RMが競合他社より優れ、競合のための武器になる

リスクマネジメント発祥の地オーストラリアやニュージーランドですら「①初期段階」で、とりあえず最低限のリスク管理、いわゆる「保健管理型RM」という考え方がまだまだ一般的だと著者は指摘している。しかし、クロスボーダー取引やM&Aの増加、企業法概念(特許等)の複雑化等、リスク増加にからむ論点が急速にクローズアップされる経営環境において、各国で徐々に経営戦略型RMの取り組みが散見されはじめている。

本書では、Johnson & Johnsonのリコール対応や、マルエツの生産履歴証明書の導入、SHARPの特許非出願等、リスクを積極的にコントロールする先進的な取り組みが詳しく紹介されており、こうした企業が他社に先駆けてリスクマネジメントによって商品・サービスの品質向上や、企業ブランドの強化など企業価値の向上につなげている様子を捉えることができる。

 

リスクマネジメントの導入ステップ

では、これからリスクマネジメントに取り組む企業は、どのように仕組み化を進めていくべきか。本書では、3ステップでリスクを形式知化していく方法論を提示している。ここでは方法論の骨子を紹介するが、本編には上記以外にも事例が豊富なので、以下を読んでささる部分を感じた方は、実際に手に取って詳細まで読み込んでもらいたい。

ステップ1. 「発見」

リスク・マップ(発生頻度をy軸、影響の大きさをx軸にプロットしたもの)を作成し、まずはリスクを目に見える形に棚卸しする。

ステップ2. 「評価」

ポートフォリオの現在価値が最大どの程度の損失を被る可能性があるかを算出する手法(VAR)や、想定される環境悪化のシナリオを勘案する分析手法(ストレステスト)などを組み合わせ、各リスクを評価し、対処すべき優先順位を決定する。

ステップ3. 「最小化」

リスクを最小化するための方策として、以下の4つの方向性が示されている。
<低減> 例:ポートフォリオ運用やオペレーションや資本構成等の変更
<移転> 例:リスク・ファイナンス(保険や共済、証券化)
<許容> 例:期待される成果を達成するために管理できるリスクは許容
<回避> 例:リスク・リターンを定量的に検証した上で、見合わない事業を切り出し



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