脳はバカ、腸はかしこい

脳はバカ、腸はかしこい

変なおじさん

著者の藤田紘一郎は、東京医科歯科大学名誉教授で、細菌研究で数々の発見を達成してきた。これだけ聞くと、何やらお堅い研究者がイメージされるが、そう思った方は大間違いだ。彼は、ヒトと腸内細菌の関係を調べるために、自ら腸の中にサナダムシの“キヨミちゃん”を飼い、ある日コンビにでトイレを借りた際に、肛門からキヨミちゃんが出てきてしまい警察沙汰になるなど、こちらが引っくり返るようなぶっ飛びエピソードに事欠かない“変なおじさん”なのである。

しかし、実地体験を積み重ねて研究を続けることで、頭で思われてきた常識を彼は覆してきた。本書では、彼の腸内細菌研究の成果が誰にでも分かるよう整理されており、“脳”がいかに騙されやすいか、そして“腸”とうまく付き合うことこそが健康の秘訣であることを、数々の爆笑エピソードと共に教えてくれる。くだけてはいるが、よくありがちなトンデモ本の類とは一線を画す、優れた科学本だ。

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“脳”の落とし穴

彼の議論は、昨今流行りの“脳”論から始まる。数えきれないほどの神経細胞から構成された芸術のような脳の、その複雑な仕組みを紐解き、例えば使われていない部分を活性化(脳トレ)させることで、僕らの才能や記憶力を増強することができるというのは、よく聞く話である。

しかし、著者はそうした“脳”論の隠れた落とし穴について、強く警鐘を鳴らしている。確かに、脳の仕組みを解き明かせば、様々な面で僕らの健康や生活をより良くすることにつながる。しかし、脳は万能のように見られがちだが、記憶違いを起こしやすく、目の前の誘惑に弱かったりと、実は精神状態がどうなろうと、脳が満足すればよしというシステム(報酬系)で動いているのも事実だ。

更に言えば、そうして脳が偏重されてきた中で、何事も頭で考えるようになった僕らの社会は、脳の満足/不満足のスキームが変調を来すことでうつ病を増やし、かつてない自殺者を生んだと言う。

 

“腸”が幸せをつくる

こうした“脳”偏重による失敗を踏まえ、見直されるべき器官こそが“腸”なのだという。著者まず、腔腸動物を例にとりながら、腸が脳の指令から独立して動く器官であることを解説する。腸は、脳の報酬系のように快楽的インセンティブで動いたりしないというわけだ。このことは、変なものを食べたら下痢になるというシンプルな腸のシステムを思い浮かべれば十分だ。

一方で、こんどは腸から脳への指令関係において、腸は非常に重要な働きをしている。腸は、セロトニンやドーパミンなど、ヒトが幸福を感じる物質の前駆体を合成する機能を持つ。さらに驚きは、そうした腸の働きは、腸内細菌という腸に生息する生物の働きとリンクしている。つまり、別の生き物である腸内細菌が出す酵素が、宿主である人間にも作用しているというのだ。

例えば、ガン細胞を取り除くRh-1免疫システムを高める要素の70%は、腸内細菌が握っている。また、回虫を飼っているアジアの子供たちは、アレルギーになることがないという。腸内細菌を活性化させることで、腸の働きを正常化し、ひいては脳の幸せにつながるカラクリだ。

 

よし、明日から“快腸”を心がけよう。



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