株価暴落

株価暴落 (文春文庫)

邦銀マンとは何かを知る

僕は職業柄、邦銀のコーポレート・ファイナンス担当者と仕事をする機会も多い。その度に、邦銀マンに共通する行動原理があることを意識させられてきた。利権的なビジネス構造や、3年ごとの配置転換という仕組みから自然と醸成されてくるある種の保守主義の上に、配属された部署ごとのカラーが乗っかることで、独特の「邦銀マン」は出来上がってくるのである。

本書は、そんな邦銀マンの興味のありか、腹の奥を分かりやすく小説化している。著者、池井戸潤は三菱銀行に勤務経験のある元邦銀マン。彼の描く邦銀マンの心理は、多少のデフォルメはあれど、まさにリアル。とある融資案件を巡って繰り広げられる審査部と企画部の争いは、あたかも実話のように思える。

 

大口取引先への融資を続けるべきか

とある案件とは、大手邦銀の白水銀行の大口融資先である、株式会社一風堂への追加融資だ。一風堂は、オーナーのワンマン経営によって、急拡大をしてきた大手スーパーマーケットである。しかし、度重なる出店は売上こそ嵩上げしてきたものの、ボトムラインへの貢献は議論されぬまま有利子負債は積み上がり、再建策もお茶を濁すばかりで、白水銀行最悪の業績懸念企業となっていた。

そんな矢先、ただでさえ将来の見通しが不透明な一風堂の店舗で、連続爆発事件が起こってしまう。遠ざかる客足、進まぬ再建計画、株価も暴落し風前の灯火。そのとき、白水銀行は、メインバンクとしてどう判断すべきか。

 

先送りの麻薬

あなたならどうするだろうか。不信企業の生殺与奪権を握る審査部の坂東調査役の答えはNOだった。当然といえば当然だ。一風堂の管理体制が一新しない限り、緊急避難的に輸血を施しても早晩ICUに舞い戻るだけなのは、目に見えている。

しかし、そんな坂東に対し、企画部のエース二戸は融資を続けるよう、ありとあらゆる手段で圧力をかける。もちろん、銀行は慈善事業でないから、単純に一風堂を助けたいわけではない。二戸の頭にあるのは、白水銀行の今期の業績、バランスシートの見映えの一念である。仮に坂東が主張するように融資を断り、一風堂を銀行の管理区分である「破綻懸念先」に分類した場合、白水銀行の資本健全性は悪化し、これまでの債権の多くをカットせざるを得ない状況になる。ならば、とにかく「要注意先」に据え置き、融資を続けて、マイナスの影響を先送りしたいというわけだ。

 

邦銀に対する熱い思い

銀行マンが1日目に学ぶ言葉に、「融資の要諦は回収にあり。」がある。坂東はこの言葉だけを頼りに、自分の判断の正しさを、この銀行にとって正しいことを貫こうと孤軍奮闘する。果たして、白水銀行が最終的に下した結論とはどのようなものだったのか。この小説の魅力は、まず銀行という一般的に取っ付きにくい題材を見事にエンターテイメントへ昇華したことにあるわけだが、それ以上に、邦銀に特別な感情を抱く著者の熱い思いが、坂東のセリフの端々から溢れだしていることだろう。



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