戦略PR

新版 戦略PR 空気をつくる。世論で売る。 (アスキー新書)

買いたくなる「空気」をつくる

日本では広告市場が約7兆円に対し、PR市場は約700億円(広告市場の1/100)に過ぎない。しかし、米国では広告市場が約17兆円に対し、PR市場は約1兆円(1/17)もあると言われている。それはなぜか。日本でPRと言えば、プレスリリースや地域貢献活動のような地味なマーケティングを想起しがちだが、実はPRが果たす役割をもっと広げて考える余地がある。

この考え方を表現したのが、「戦略PR」というキーワードだ。「戦略PR」は、すでにバズワードのように広く認知されるようになったが、きっかけをつくったのはグローバルPRカンパニーのフライシュマン・ヒラードの上級副社長兼シニアパートナーで、スピンアウトした戦略PRブティックのブルーカレント・ジャパンでCEOを務める著者が書いた本書だ。売るために商品をアピールするではなく、買いたくなる「空気」をつくるという本書が分かりやすく示した発想の転換は、戦略PRを理解する原点として今も読む価値がある。

この本で僕は、そんな難しい時代に一つの「解決策」を示したい。それが、「空気」をつくる、という発想だ。消費者を「買いたい気分」にさせる「空気」。商品を売るためにつくり出す「空気」。そして、そんな「空気」をつくり出せるのが、「戦略PR」という手法なのだ。

戦略PR_PR市場の日米比較

買うべき理由が必要な時代

その理由は、インターネットが出現し、情報が洪水のように爆発的に増え、しかも大抵のことは差別化しつくされた成熟市場では、もはや個別の商品情報を大きな声で叫んでも届かないということだ。反対に、消費者の心をつかめる限られた商品は情報の波に乗り、「グンと売れやすくなる環境」でもある。

この大きな波をつかむヒントが、「商品が売れるためにつくり出したい空気」(=「カジュアル世論」)だ。一番大切なポイントを、著者は「その商品を買うべき理由」をつくることだと表現している。数ある商品のなかで、しかも買わなくてもすむ嗜好品を、敢えて買う決断の背中を押すこと。

例えば、詳しく紹介されているサントリーのハイボールの事例。この事例では、おじさんの飲み物として敬遠されていたウイスキーの新しい飲み方を提案したことで、新しいおしゃれな飲み物や、安くておいしく酔える飲み方として小さいブームが起き、さらに「流行の2段流れ説」の要領で、みんな飲んでいる、遅れたくないという「空気」ができていった。

TVでハイボールのCMを流しただけなら、消費者の記憶の中に飲み物の選択肢が増えるだけだ。ニュースで取り上げられ、居酒屋でもハイボールのシールをよく見かけるなと思っていると、会社でも同僚がハイボールの話をしていたとなれば、話は変わってくるというわけだ。

ドイツの政治学者エリザベート・ノエル=ノイマンは、「世論は社会的な皮膚である」と言った。僕たちは常に自分の考えを持ちながら、他の人の考えにも注意を払っている。そして、同じ考えを持つ人がどれくらいいるか、も意識している。そんな「同じ考えの輪」のようなもので、僕らはたぶん薄~くつながっている。なるほど、世論は社会の皮膚みたいなものかもしれない。

戦略PR_気づきと商品ポジショニング

「空気」をつくるためのコツ

どうやって「カジュアル世論」をつくればいいのか。戦略PRの作法は、「情報をつくる」「情報を広める」から成る。

メディア、ひいては消費者の関心を最大化できるテーマを設定し、そのテーマを広げることで商品の売上に貢献するという「シナリオ」を描き、そのシナリオを具現化させるための綿密なチャネル設計を行ない、設計にもとづき情報の伝播を仕掛ける

という4つのプロセスの中で、前半が「情報をつくる」、後半が「情報を広める」にあたる。

「情報をつくる」は、伝えるから始まる従来のマーケティング発想と180度異なる戦略PRのキモだ。ここで重要になるのが、「おおやけ」(「公共性」の要素)だと著者は強調する。例えばハイボールなら、みんなに話したい最近のブームだったわけだが、ノロウイルスの感染予防、赤ちゃんの睡眠不足の危険性、悩みを抱えるランナーたちなど、個別商品の関心を超えた、社会的な関心のレイヤーで消費者が知りたがっているのかをつかむコツが、様々な事例を交えて紹介されている。

「情報を広める」は、いわゆる広告マーケティングのようにも思いがちだが、マスコミやインフルエンサーを自然に巻き込む工夫や、広告の枠にとらわれないコミュニケーション手法への展開など、これまでにないコミュニケーションデザイン力が求められる。キーワードになるのが、「ばったり」(「偶然性」の要素)と、「おすみつき」(「信頼性」の要素)。どうやってばったり感やおすみつき感をつくっていくのか、こちらも、実務レベルで具体例がたくさん紹介されているので参考になる。

戦略PR_カジュアル世論の3要素



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