弱者の戦略

弱者の戦略 (新潮選書)

戦略は弱者のためにある

戦略論は、もともと戦争で勝つためには戦力をどう配備すべきかを理論にしたものだ。強者にとっての戦略は、豊富な戦力をくまなく配備し、支配を邪魔する勢力の芽をつぶし、仮に邪魔者が現れてしまっても、戦力を総動員して叩きのめすのが王道だ。

一方で、弱者はそうはいかない。限られた戦力をどう配備すれば強者に勝てるのか。時には奇襲、時には一点突破、場合によっては降伏して傘下に入るなど、様々な選択肢からベストな戦略をその都度選び取っていかなければならない。だとすれば、しぶとく生き残っている弱者こそ、真の戦略家と言えるのではないだろうか。

そこに目をつけたのが本書『弱者の戦略』だ。著者は、なんと生物学者。どう見ても弱そうな生き物たちは、なぜ厳しい自然界を生き抜くことができるのか。何気なく生きているように見える彼らの生存戦略を解き明かしていくことで、戦略論の真髄を理解することができるという面白い本なのだ。

 

弱い生物の3つの戦い

弱者が向き合わなければいけない厳しい戦いは、大きく3つあると著者は指摘する。

  1. 食う食われるの関係 : 弱肉強食の世界で食われないための戦い
  2. 他の生物との競争関係 : 群れが住むためのテリトリーを他の生物と奪い合う戦い
  3. 同じ種類の中での覇権争い : 群れの中でエサやメスにありつくための戦い

弱者が戦わなければいけない敵は多い。時には仲間だって敵なのだ。では、この3つの戦いに対して、弱い生物たちはどんな手を打っているのか。

 

食われないための4つの戦略

①「食う食われるの関係」における戦略を、著者は4つに分かりやすくまとめている。

  1. 群れる :天敵への警戒を高める、異能集団化する、個体のリスクを低減する
  2. 逃げる :競争を敢えて複雑にする、情報収集のスピードで勝負する
  3. 隠れる :さらに小さくなる、他の姿に変化する、目立たずに生きる、賭け札を増やす
  4. ずらす :時間・タイミングをずらす、場所・空間をずらす

1~3は当たり前の戦略に思えるが、生物の生態を観察するとその奥深さに気づかされる。例えば、イワシが群れて大きく見せるのは有名だが、ライオンもハイエナ対策として群れる。チーターより遅いガゼルは、ジグザグに走ることでトップスピードの勝負を無効化する。ナマケモノは、動体視力の優れたジャガーに気づかれないよう、極端に行動を減らす。「群れる」、「逃げる」、「隠れる」とひとくちに言っても、実はこんなにも戦略の幅があると分かってくると、あなたの発想も広がってくるのではないだろうか。

 

高度な「ずらす」戦略

4つめの「ずらす」は、4つの戦略の中でも高度な戦略であることに留意が必要だ。なぜなら、強者と戦うフィールドを「ずらす」ということは、砂漠のように、強者も選ばないような厳しい環境を敢えて選ぶことで、自分がナンバー1になれる居場所をつくる戦略だからだ。

例えば、植物の世界では、花粉を運ぶ虫に自分を選ばせる熾烈な競争が繰り広げられている。そこで、マツヨイグサやカラスウリは、虫が少なくなった夜に花を咲かせるという厳しい選択をすることで、夜行性のガを呼び寄せて、新たな生きる道をつくり出した。その他にも、ラクダの体質耐性戦略、西洋タンポポのパイオニア戦略、アメンボの空間創出戦略、カブトムシの早起き戦略、鳩の戦わない戦略、ウシガエルのスニーカー戦略など、①~③のそれぞれの戦いのレイヤーで、様々な趣向を凝らした「ずらす」のバリエーションが溢れている。

これらに共通して大事なことは、「どんなに小さい場所であってもナンバー1」を目指せということだ。ナンバー1でなければ最後には生き残れない。だから、大きなパイの小さな取り分を狙うより、パイを小さく狭く、細かくしてでも「限られたニッチの中でナンバー1になれる」方が大切だという生物からの学びは、戦略における本質をついている。

 

強者のはじまりは必ず弱者

生物たちの「弱者の戦略」は、このように弱者に様々な学びを授けてくれる。ビジネスに当てはめてみても、ベンチャー起業、新規事業立ち上げ、M&A・アライアンスなど、様々な場面において、どうすればNo.1になれるのかを考える心強いヒントになるはずだ。

忘れてはいけないのは、この小さなNo.1こそが将来の強者をつくるということだ。トヨタも織機からはじまった。ソニーもトランジスタからはじまった。特に変化の激しい昨今の事業環境においては、こうしたNo.1をつくれるものこそが、最終的に強者として生き残ることができるのではないだろうか。

生物にとって、もっとも重要なことは何か。言うまでもなくそれは、生き残ることである。結局のところ、「強い生き物が生き残る」のではなく、「生き残ったものが強い」のだ。



“弱者の戦略” への1件のコメント

  1. とおりすがり より:

    4つの弱者の戦略をビジネスの視点でキーワード化すると、
    たとえばこんなキーワードが浮かんできました。

    群れる⇒コンソーシアム化、ネットワーク化
    逃げる⇒テクノロジーNo.1、コーポーレートベンチャリング
    隠れる⇒ニッチトップの量産、競合が持つ資産の負債化
    ずらす⇒競合を顧客に、異業種とのコラボレーション

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