キャリア転機の戦略論

キャリア転機の戦略論 (ちくま新書)

ライフデザインにおいて重要な位置を占めながら、情報が不足する中で意思決定を迫られる就職・転職。

個々人はこれを心配事として抱えてしまうために、頭で延々と考えているうちに、判断の迷子になってしまいがちである。

キャリア選択に何らかの一般解を与えることは難しいが、問題をコトバやモデルに置き換えることで

空中戦(頭で考えるだけで着地点のない議論)に形を与えることが問題解決における鉄則のひとつである。

 

本書は、学生、若手ビジネスパーソン、シニアランクのビジネスパーソンという三者三様の立場の人へのインタビューをもとに

戦略論の専門家である著者が、キャリア転機におけるキーワードを抽出していく。

ここで抽出されるキャリアのモデルはヨーロッパの事例であり、モデル数も少なく、読者によっては共感しづらいかもしれない。

僕自身、本書を読んで「まぁ、そういう人もいるかな」という印象を受けたことも事実である。

しかし、こと日本においては、新人からすると数年・数十年も先に、新たなキャリアチェンジで悩む機会は少なく、

そのため、そうしたシニアの事例を扱った本として希少性があるし、ひとつの参考になるとも思う。

 

人生の戦略を立てる際に、ものごとの順序を固定的にとらえなければならない理由はない。

むしろ順序に対するフレキシブルな受け止め方とそれを前提とした戦略性の強化がキャリアデザインでは重要であること、

この点こそが、ヨーロッパの事例がわれわれに示唆する最も重要なポイントではあるまいか。

著者の強調するこの点には、社会的な条件と、個人的な条件の2つの問題が内在している。

前者については、入社方法(新卒採用制度と、それに付随する中途人材の低流動性)の論点がある。

これは現行制度が風化している中で、長期的には自然と解決に向かうであろうテーマだが、キャリア戦略立案の制約になっている。

後者は、本書で取り上げられているビジネススクールの学生の中に医師がいることに代表されるように、

キャリアのステップは決して既成のものでなく、自由に選び取るものだという意識を持てるかということである。

 

ヨーロッパの若者においても「自己防衛」のためのキャリア選択という側面が否めず、

国を問わず若者の意思決定がコンサバティブになりがちなことは、若者が持てる情報の量から考えて、ある程度はしかたがない。

しかし、自分の価値判断の基準から選び抜いた選択肢の中から、多少コンサバティブな選択をすることと、

世の中一般にコンサバティブだと思われている選択肢をただ選択することの違いは、確実に区別をしておきたい。

2番目の選択をしてしまう気持ちも分からないではないが、本人にとってナンセンスであるし、

世の中一般に優れていると言われる選択肢ほど、実はそうでない場合が往々にしてあるから困ったものである。

まずは、1度の選択で全てが決まるわけでないことを忘れず、キャリア人生全体で見たときにプラスが最大になるような

スタンスに立って物事を考えることが、将来に対する健全な心配の仕方なのだと思う。



この本についてひとこと