タックス・シェルター

タックス・シェルター (新潮文庫)

タックスを巡るエンターテインメント

過去に僕が関わったM&A案件で、あるオールドエコノミーの大企業が劣後ローンの形で大規模な資金調達を行った。

この劣後ローンは証券化され、優先出資証券として各投資家の出資を募るもので、

優先出資証券を発行するビークルは、タックスヘイブンであるケイマン諸島に登記されたSPCであった。

金融機関ではなく、伝統的なドメスティック産業の会社でさえ積極的に複雑な財務ストラクチャリングを実施するなど、

タックスヘイブンがいかがわしい印象を持たれていた時分とは隔世の感がある。

さて本書は、一介のビジネスマンがこのような「租税回避策(タックス・シェルター)」をイリーガルに利用したがために

泥沼の世界へと足を踏み入れてしまうという、新しいトピックを扱い、それでいて非常に人間味のある生臭い物語である。

いつもながら、こうしたホットイシューを料理してくれるエンターテイナー(作者)に感謝したい。

 

租税回避マネー

中堅企業「谷福證券」に勤務する財務部長「深田」は、同社オーナーの谷山福太郎を側近として公私の別なく支えてきた。

かつては谷山の娘との縁談話すら持ち上がるほど、2人の結びつきは精神的に強かったのである。

そんな谷山の突然の死は、残された夫人を守るために、深田をして谷山の財産管理に命を賭けさせるには十分な契機であった。

しかし、深田には大きな問題が残ることとなった。

谷山は生前、深田だけに海外の隠し口座に蓄えた財産のことを打ち明けていて、

公私の不明瞭なこの口座を谷山本人抜きにどうやって処理するかが悩みの種となったのである。

深田はそのことを、古い友人で元バンカーの「坂東」と、その知り合いでファンド・マネージャーの「稗田」に相談する。

しかし、この2人の専門家に相談したことが、深田の運命を大きく変えてしまうことになる。

資金運用に長けた坂東と稗田にとって、大きな資金を運用もせずに寝かせておくことは耐え難かった。

そこでSPCを利用した巧妙な会計操作により、租税を回避するだけでなく、更には新たな投資の原資としてドレッシングしてしまう。

 

タックスストラクチャリングの魔力

のちに谷福證券にも、国税局の監査が入ることとなる。

その国税局の調査員のひとりである「有紀」の物語も、本書の中心をなす重要なもう1つの柱である。

彼女の、査察員としての職業倫理と深田の誠実さに対する敬意が入り乱れていく様は、切なく、ドラマティックである。

坂東・稗田の画策は、有紀によって暴かれるのか。窮地に立たされた深田の心中はいかに。

“税”というどこか取っ付きにくいテーマに、これほどひきこまれることはないだろう。

目に見えないタックスストラクチャリングを巡る思惑、駆け引き、人間の性を、ヘッジ・ファンドや国税局まで

登場させてここまで描ききった作者の筆力に驚嘆するばかりである。

また、現実問題として、税の問題に直面する機会はビジネスにおいて急速に増えているという意味では、

この興味深い物語をきっかけに、税の知識と向き合ってみてはいかがだろうか。



この本についてひとこと