夢みる宝石

夢みる宝石 (ハヤカワ文庫SF) The Dreaming Jewels

シオドア・スタージョンの世界

スタージョンの物語で特徴的なのは、白痴や奇形、異常な癖がある、超人的な能力があるなど、

いわゆる“普通の人”とはちょっと変わった人物ばかり出てくることだ。

後段で、そこに込められたスタージョンの肯定的な思いについて触れたいと思うが、

この物語でも、通称「人食い」という元締めが束ねるカーニヴァルという見世物小屋を舞台に、

そこで働く小人のホーティ、ジーナ、バニーの3人や、異様な容貌で聾のソーラムなど、

一般大衆たちから見た“鼻つまみ者”たちを主役に据えている。

カーニヴァルはひとつの世界、しかもすばらしい世界だったが、
同時に彼女に身を寄せる場所を与えた代償として、過酷な支払いを要求した。
彼女がカーニヴァルに所属しているという事実そのものが、物珍しげな目と、
彼女を指さして、おまえはちがう、おまえはちがうとささやく声を意味していた。
片端者!

 

宝石が夢を見る

無実の罪で医学界を追放された若い頃の人食いは、ある日、全く瓜二つのオークの木を見つける。

彼はこの木の研究を進めるうちに、意識を持つ宝石(水晶)のような地球外生命体の存在にたどり着く。

この宝石は、驚くことに夢を見るのだという。そして、宝石が完全な(=はっきりとした)夢を見たときは

完全な生物(人間、動植物)を、時々失敗して不完全な夢を見たときは奇形を作り出すのだ。

彼は、奇形の人間の中に宝石が作り出した生物(=クリスタライン)がいると考え、

カーニヴァルの中からクリスタラインを見つけ、人間への復讐に利用しようと考えたのである。

 

生きることに対する疑義

スタージョンがヒネリのきいた設定で僕たちに問いかけるのは、

宝石の不完全な夢でしかないかもしれないホーティたち、ひいてはこの世界全体の存在意義である。

オリジナルだと思っていたあらゆる事物がコピーにすぎないかもしれない疑惑

そうした諦観を持ち込むことで、それでも必死で足掻く「片端者」の人間らしさを浮き彫りにしている。

“普通の人”になれずにいる悩みや、一方でカーニヴァルでの生き方も肯定したい思いもあり、

なんとも中途半端な形でしか生きられない現実。それでもホーティはこう語る。

やがて、一瞬のうちに彼は悟った。
地球で生まれた生命はすべてひとつの命令にしたがって行動している。
それは「生きのびよ!」という至上命令だ。
人間精神はそれ以外の基本原理に思いおよばない。

 

生きることの肯定

クリスタラインだろうが奇形だろうが、そうでなかろうが、とにかく生きのびることを肯定すること。

結局は、宝石が無邪気に夢を見た副産物のような存在でしかないかもしれないが、

それでも、悪あがきした先に何かがあるかもしれないと信じること。

ホーティたちの姿を見ていると、その何かを、不完全な仲間たち同士の奇妙な関係の中に

見つけているような気がして、強く胸を打たれる。



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