The Logic of Scientific Discovery

The Logic of Scientific Discovery (Routledge Classics)

ポパーが残した現代へのメッセージ

カール・ポパーは、20世紀を代表する科学哲学者だ。

カール・ポパーの最大のキーワード、“反証可能性命題”(the theory of the deductive method of testing)は、

現代科学の基礎を形作っただけでなく、現代の抱える実存的課題に対する重要なキーワードとして今でも生きている。

科学的理論は、反証することができないという消極的な演繹でのみ、理論として確かなものになる。

この定義そのものは、至極当たり前のことなのだが、足を止めて考えると、大きく2つの意味が隠されている。

ひとつは、経験の慣性に引きずられる帰納主義を批判し、反証によってイノベーションを呼び込む素地を作り上げた点。

もうひとつは、理論に拘泥する論理実証主義を批判し、実践哲学として哲学的追究の中身に目を向けた点だ。

僕は、高校時代に横山雅彦先生からこのポパーの科学哲学を教わり、大学入学後すぐに本書を手に入れた。

量子論に関する議論など、細部に対する理解が足りていない部分が多いものの、これまで何度も読み返して、

徐々に見えてきた彼の哲学について、ここでまとめておきたいと思う。

 

帰納主義批判:カラスは黒い?

僕らは普段、例えば公園でカラスを見たときに黒いカラスばかりだと、「カラスは黒いものだ」と何気なく思うものだ。

しかし、科学的な手続きという意味では、そうした言説が普遍的に妥当することは一生検証しようがない。

なぜなら、科学で要請される“普遍性”とは、“時代”も”場所“も問わないことを検証することだが、既に死んだ昔のカラスや

明日生まれるカラス、さらには別の惑星に生息しているかもしれないカラスまで見て回ることなどできないからだ。

つまり、いかに世が認める大理論で、帰納的に実証例をいくら積み上げても、決定的な根拠には成りえないのである。

そこでポパーは、仮説が「反証できない」確認を繰り返し、最も確からしい仮説を導き続けることこそ科学だと思い至る。

ポイントは、正しさを確かめる“検証”ではなく、正しくないことを確かめようとする“反証”にある。

事実に基づく様々な反証に仮説が耐えることで、適者生存的に、より妥当性の高い仮説が導かれる。

科学哲学の巨人が辿り着いたのは、科学に対して“謙虚たれ” という非常にシンプルな結論だったのだ。

 

帰納的飛躍(inductive leap)

ポパーは同時に、反証可能性を受け入れさえすれば、科学的・哲学的問題の追究は誰にでも

開かれた行為であることをメッセージとして示している。

どんなに常識的で正しそうな物事も、それはあくまで現時点での最善解でしかないことは、先に述べたとおり。

したがって、僕らがすべきことは、常により望ましい理論や哲学に目を向け、物事を批判的に捉えなおすことである。

ポパーは、僕らの創造的知性(“irrational element”、“a creative intuition”)がより良い仮説に思い至ることを、

帰納的飛躍(inductive leap)と呼び、新たなイノベーションを呼び込むエンジンであることを重要視していた。

トマス・クーンのパラダイム論との比較の中で、ポパーの議論はあくまでひとつのパラダイムの中での

議論ではないかという批判があるが、この帰納的飛躍に着目していたことを鑑みると、

クーンの言うパラダイム転換を包含した上でのイノベーション理論であったと僕は思っている。

 

論理実証主義批判:実存的哲学へ

一方、帰納主義とは異なり、前期のウィトゲンシュタインに代表される論理実証主義は、世界の出来事を論理で

分解しつくことで、僕らが目にしている世界(普遍で単純な対象と、それらの間の関係)を全て記述できると考えた。

しかし、これに対してもポパーは、どれだけ世界を論理で分解しても、その論理自体が今後も変わり得る点や、

次の事例においても同様に論理で分解できるかどうか分からない点から、あくまで仮説に過ぎないと批判した。

また、論理実証主義が分析の対象とするものは、「われわれの認識がどのように発生するか」であり、

その認識がどのような内容を持っているかに踏み込まない点でも、本質的に不十分であることを批判した点が重要だ。

論理実証主義は、「どのような内容か」はあくまで主観的問題であり、ナンセンスであるとしたが、

ポパーは、そうした実存的問題こそ重要であり、世界を理解しようとする意図を持ったあらゆる試みに対しても

論駁されないかどうか検証することで、科学的・哲学的な進歩が導かれると考えたのである。

最後にポパー自身の言葉を紹介しよう。これから世界に挑む者への強いメッセージだ。

 

Science has more than mere biological survival value. It is not only a useful instrument.

Although it can attain neither truth nor probability, the striving for knowledge and

the search for truth are still the strongest motives of scientific discovery.

 



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