路上の弁護士

路上の弁護士〈上〉 (新潮文庫) The Street Lawyer

ストリート弁護士(ホームレスを対象とした公益法専門家)

主人公マイケル・ブロックは32歳のアソシエイト弁護士だ。彼は弁護士400名を数えるワシントンDCの大手「ドレイク&スイーニー」に所属しており、パートナーになると100万ドル級の年収を得られるエリートコースを歩んでいた。しかし、彼のエリート人生は、あるホームレスに関する事件を境にがらりと変わってしまう。

ある日、彼の事務所に乗り込んできたそのホームレスは、銃を構えてマイケルたちを人質にとる。しかし、ホームレスは食事の差し入れを受け取る隙に警察の狙撃手によって撃ち殺されてしまう。後で分かるのだが、実はこのホームレス、 ドレイク&スイーニーによって倉庫から退去させられていた。マイケルは、この事案を担当していたパートナーに本件のファイルを見せてもらいに行くのだが、パートナーは不自然にもマイケルをオフィスから追い出してしまう。

ドレイク&スイーニーの巧妙なやり口に気づいたマイケルは、ストリート弁護士として活躍する、ある黒人弁護士との出会いをきっかけに、事務所を飛び出し、古巣と対決することになるのだが・・・。

 

プロ・ボノ(pro bono publico)

この物語は、ジョン・グリシャム定番の法廷劇を中心とした作品とはちょっと違っている。訴訟以上に、ニューヨーク・ワシントンDCにおける格差やホームレスの実態を描いている。もちろん、日本にだって格差はあるのだが、この物語が教えるアメリカ社会の実態は、あまりにも大きな貧富の差(いわゆる「ロッキー山脈」)に驚きを禁じることができなかった。

一方で、そうした貧困層をケアするための「プロ・ボノ(pro bono publico)」活動は、アメリカではさかんであるが、日本では見かけることがほとんどないのも大きなコントラストだ。こうした仕組みの違いで、どちらが結果として良い社会なのかは分からないが、少なくとも、日本に不足しているケアのシステムを知っておくことは非常に重要だ。

 

ニューヨーク及びワシントンでの取り組み

あくまで短時間でざっと調べてみたところだが、ニューヨークでは、Coalition for the Homeless(CFTH)、Do Fund、Common Ground、ワシントンDCでは、DC Central Kitchinといった団体が特に活発に活動している。団体によって活動の根拠や内容に相違はあるものの、様々な仕方で支援が行われている。例えば、ホームレスのシェルターの確保や無料食料配給、就労トレーニングなどがある。就労トレーニングでは、インターン先に一流企業も含まれており、プロ・ボノ活動に対する日本では決して見られない社会一般の意識の高さが伺える。

また、教会という施設がアメリカ社会において大きな働きをしているのも発見だった。法的には「NYの全ての人々がベッドで寝る権利を保障する」としたベッドロック法など、先進的な取り組みも見られる。

 

目の前の問題と向き合う覚悟

ホームレスを支援する上で問題なのが、麻薬の問題だ。驚いたことに、治安の悪い地域(第三世界)に行けば、昼間でも簡単に手に入るという。特に、安価で中毒性の高いとされるクラックは非常にたちが悪い。この物語の中でも、クラックによって人生をどれだけ損なうのかが徹底的に描かれている。その他にも、ストリートギャングやエイズなど、貧困と結びついた問題は深刻化している。

こうした問題に対処する弁護士が不足する中、果敢に飛び込んだマイケルの運命は。ボランティア精神云々ではなく、目の前にある見過ごせない問題に突き動かされていく彼の切迫した姿が強く印象に残るエンターテインメントだ。



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