明日の広告

明日の広告 変化した消費者とコミュニケーションする方法 (アスキー新書 045)

まだまだ「明日の広告」

『明日の広告』は、デジタル化やソーシャル化が進み、生活者のコミュニケーション環境が激変する中で、企業と消費者のコミュニケーションをどうつないだらいいのかについて、広告という枠を超えたところも含めて分かりやすく紹介している。

著者は、今は独立した元電通のクリエイティブ・ディレクターで、「さとなお.com」など、個人のインターネット黎明期から活躍されていることでも知られる佐藤尚之。「広告」をつくる業界において、いち早く「コミュニケーション」をデザインすることの重要性に気づいた彼の指摘は、今読み直しても参考になる。

本書はすでにマーケティングにおける古典のように読みつがれている1冊だが、古典とはいえ、彼が論じるような本当のコミュニケーションデザインは、これまでのジレンマから抜けきれない広告業界にとってまだまだ「明日の広告」ではないだろうか。

明日の広告

コミュニケーション・デザインに必要な4つの発想

コミュニケーション・デザインに発想を転換する上で、著者は大きく4つのポイントを指摘している。

  1. 消費者が「広告」というラブレターを受け取らなくなっていること
  2. ラブレターではなく、自分自身を相手好みに変えること
  3. 自分自身を変えるときのポイントと事例からの学び
  4. コミュニケーション・デザイン時代における「広告」の意味

 

1. 消費者が「広告」というラブレターを受け取らなくなっていること

インターネットが出現し、情報が洪水のように爆発的に増え、大抵のことは差別化しつくされた成熟市場において、あえて「広告」に情報を期待する消費者が減っているというのは、すでにそういう環境が日常化した今の僕たちにとっては当たり前に理解できることだと思う。

では、具体的に消費者の何が変わったのか。著者はラブレターに喩えて説明している。

 

2. ラブレターではなく、自分自身を相手好みに変えること

では、新しい消費者とうまくコミュニケーションするにはどうすればいいのか。もちろん、相手の趣味や行動を調べ(Big Data)、相手の行動を先読みし(オムニチャネル)、感動的なラブレター(クリエイティブ)を渡すという「広告」の精度を高めることもできる。いわゆるOne to Oneマーケティングというのは、こういうものだ。

しかし、消費者が本当に見たいものは、そういうラブレターの問題なのだろうか著者は、「ラブレターを渡す自分自身を相手好みに変える」ことにこそ、本質的なコミュニケーション・デザインではないかと問う。

言うまでもなく、広告コミュニケーションは消費者とのコミュニケーション活動の単なる一部分にすぎない。消費者とより深くコミュニケーションするとしたら、広告だけが「変化した消費者」に対応してもダメである。

 

3. 自分自身を変えるときのポイントと事例からの学び

とは言うものの、「広告」ではない企業と消費者のコミュニケーションとは何なのか。ポイントは、「企業のソリューションから消費者のソリューションへ」のシフトだ。“企業のメッセージをいかに伝えるか”から“消費者が集まる場が作れるか”へ。

著者は、最近のマーケティングのキーワードを分かりやすく解説しながら、様々な事例を交えて「消費者ソリューション」のあり方を示していく。スラムダンクの1億冊キャンペーンは、特殊な事例ではあるが特に面白い。

コンタクトポイント

マスメディア、ネットに限らず、OOH(屋外広告)やイベント、店頭、友人等、様々な消費者接点を最適に配置して待ち伏せる発想。

メディア・クリエイション

コンタクト・ポイントを新たなメディアにして待ち伏せること。NIKEは、NIKEのファンが普段接するであろう公園のゴミ箱にNIKEのマークをつけ、バスケットボールのようにゴミを放って楽しめるようにした。

CGM(Consumer Generated Media)/ブランデッドエンターテイメント

消費者が創ったメディア(=クチコミ等のコンテンツ)と、企業が消費者を楽しませるために創ったメディア(=BMWのウェブ動画等)で、“面白い”コンテンツで消費者を引き寄せること。

 

4. コミュニケーションデザイン時代における「広告」の意味

ここまで発想をふくらませてコミュニケーションを考えると、これまでの「広告」の見方も変わってくる。マスメディア広告は、認知に徹すればもっと強力なメディアとして見直されるし、クリエイティブも、CM以外の様々なコミュニケーション・デザインに対応した形に進化すればコミュニケーションをインフォメーション以上のものに高めるために欠かせない存在になる。

著者は、そうした新しい「広告」としてのマスメディアやクリエイティブのあり方や組織体制について、広告業界に変革を訴えるように論じており、広告にかける熱い思いを感じた。

たとえば圧倒的一番手がいる二番手のコミュニケーション・デザインをするとする。伝えたい消費者像がほぼ重なるとすると、コンタクト・ポイント設計やメディア選択は一番手とどうしても似てくる。ほとんど同じ待ち伏せ方法になってしまう。その上で「こういう商品が出たよ」と、存在を教えるだけのインフォメーションをしたらどうなるだろう。それで二番手を買ってくれるだろうか。それで一番手に勝てるだろうか?いや、絶対勝てない。ほとんどの人が一番手のを買う。この商品は一生二番手を抜け出られない。



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