ターニング・ポイント

ターニング・ポイント_フリッチョフ・カプラ Turning Point_Capra

ものの見方の「ターニング・ポイント」

これまでの二元論的な科学文明の限界を、量子力学と東洋思想に共通する新しいパラダイムから指摘したフリッチョフ・カプラの『ターニング・ポイント』は、1980年前後のニューエイジブームの中で、当時アメリカで大ベストセラーになった。

もちろん、単純な反科学主義、反功利主義文明としてのニューエイジ思想は、結局、アンチが目的化したり、精神ばかりを強調したオカルティズムにしかならなかった。(極端な人は「あの世」の世界とつながるスピリチュアルにのめり込んでいってしまった。)カプラの議論も、既存の科学モデルでは説明できない量子力学と東洋思想の発想で様々な事象を説明できることをたよりに、話を飛躍させすぎているきらいがあり、その意味ではオカルティズムのような“あやしさ”を感じるところもある。ただ、カプラの議論が説明として納得感があることも事実であり、リニアなロジックだけでないものの見方を学ぶヒントとして、今でも面白い1冊だと思っている。

 

還元主義的発想の限界

カプラは、既存の科学文明観を「デカルト―ニュートン的機械論」と呼ぶ。言い換えれば、万物には一貫した法則があり、何事も分解し、分析すれば、その統合である世の中の事象は理解できるという還元主義の考えを根本に据えたものの見方のことだ。同じパーツであれば機械のように取り替えても問題はない、という考え方とも言える。

もちろん、こうした還元主義的アプローチは、科学というロジックを誕生させ、科学に支えられた文明は、急速に僕たちの生活を豊かにしたのは間違いない。しかし、物質的に豊かになる一方で、自殺が増え、環境問題が悪化するなど、科学的な問題解決が別の問題を生むという矛盾をどこかで感じるところはないだろうか。

そこで物理学者のカプラは、ニュートン的ロジックでは説明のつかない量子力学を研究し、物事の調和を重んじる東洋の「タオの思想」と出会うことで、還元主義とは違った新たなアプローチがあるのではないかと考えたのである。

 

量子力学の世界観

量子力学がニュートン力学と違うのは、ひと言で言えば物事を決定論的に説明できないことだ。僕たちが見ている世の中では、リンゴはリンゴ、それがどこにあるかも特定できる。しかし、ミクロの世界では、素粒子の位置と運動量を同時に測定することができないという。はじめは、測定行為があまりに小さい電子の状態に影響を与えてしまうことが原因だと考えられたが、素粒子の“粒”を照射したのに“波”(干渉縞)が観測されることが分かり、そもそも素粒子は波と粒子の2つの性質を持ち、観測者は観測した瞬間の姿しか捉えられない(=観測してみないとふるまいが決まらない)という不可思議な結論が明らかになったのだ。

もちろん、こうした結論を確率振幅とか統計的確率像のような確率論としても説明されたが、カプラは、これを還元主義的な科学だけでは世界があることの兆候として見て取った。

 

陰と陽の世界観

カプラは、そんな時に中国の「タオの思想」と出会った。タオの思想では、「陽」(合理・積極・膨張・競合)と「陰」(直観・反応・統合・協力)を調和させる。「陽が極まれば陰にその場をゆずり、陰が極まれば陽にその場をゆずる」思想である。カプラは、これまでのニュートン力学のパラダイムは「陽」の側面ばかりを強調し過ぎた。このことが、人間社会の「陰」の側面をおろそかにし、不調和を生み出したのではないかと考えた。

例えば、医学・生理学や心理学の分野において「ホメオタシス」という発想が見直されている。ホメオタシスとは、「内的均衡を維持しようとする生命体の性向」のことだ。ある病気と病原菌の1対1の関係に着目するだけでは副作用や心の病を解決できないため、バイオフィードバックやボディワークなどによる治癒の取り組みが進んでいる。また、農業においても、化学肥料や消毒薬を使用することは短期的には合理的なのだが、複雑な生態系を破壊したことで、かえって単一の害虫に作物がやられるリスクが高まるなど、部分最適が生んだ落とし穴に対して、有機農法など様々な試みが行われている。

こうした「有機体のダイナミズム」を包括した方法論が求められているのではないか。

 

ダブルバインドとガイア仮説

カプラはさらに「陰と陽」のバランスが必要な興味深い事例を紹介している。

ひとつは、ダブルバインド(二重拘束)による精神分裂症の解明についてだ。ダブルバインドは、あることと、それと矛盾することを同時に成立させるよう強いられると、その人は矛盾した状態で分裂したまま日常を過ごすようになる現象である。こうした精神分裂症の患者は、一般的な科学常識から考えて超常現象や霊的現象とも思えるような行動をすることがある。しかし、社会的なコンテキストの中で、精神病患者を取り巻く複雑なフィードバックループを辿っていくことで、患者だけを診ていては見えない根本原因を見つけることができる。

もうひとつは、ジェームズ・ラブロックが提唱する「ガイア仮説」についてだ。地球の大気は酸素21%、窒素79%というバランスだが、酸素が1%増えただけで天変地異が多発し、酸素が1%減っただけですべての陸上生物が生きていけなくなると言われている。ラブロックは、今の大気が絶妙なバランスで保たれている奇跡のような状態を、地球そのものが一体として自己をコントロールしているシステムだと巨視的に捉えた。

こうした発想こそ、従来の科学を突破する可能性だとカプラは考えている。ここまで読んで、カプラの議論は荒唐無稽と思われるかもしれない。しかし、カプラの指摘の重要性は、科学的アプローチには通用する「範囲」があることを思い出させてくれることにある。ひと言で言えば、“思考の弁え”ではないだろうか。



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