流星ワゴン

流星ワゴン (講談社文庫)

これまでホームドラマや恋愛モノなどの小説は避けてきた。あまりにステレオタイプすぎて、読んでいて興ざめするのが嫌だったからだ。今回、カバーデザインにひかれてたまたま手に取ったのだが、実は本作を読んで、重松清作品にはすっかりはまってしまった。僕と同じ気持ちの方にも、ぜひ楽しんでもらえる小説だと思う。その謎を、少しだけ紹介したい。

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死を覚悟した「カズ」のタイムトラベル

東京のはずれのニュータウンに住む平凡なサラリーマンの永田一雄こと「カズ」は、妻の美代子はテレクラで知らない男と不倫、中学受験に失敗した一人息子の広樹はひきこもりで家庭内暴力をおこすなど、心身が少しずつ磨り減っていた。そんな折り、不幸は重なるもので、彼はリストラの対象になってしまう。今までの幸せな生活との落差に落ち込んだ彼は、ある日の朝、すっかり魂が抜けてしまう。

そこに、どこからともなく1台のワゴン車が現れる。そのワゴン車には、橋本義明・健太親子の幽霊が乗っていた。彼ら橋本親子も、カズと同じように家庭の不和に悩まされていたのだという。そして、父が仲直りのためにドライブに誘うのだが、不幸にも事故にあって死んでしまったのだ。そんな橋本親子は、カズを車に乗せ、人生の岐路となった過去の「大切な時」へタイムスリップする。

 

運命は変えられないという現実

タイムスリップしたところで、過去の運命はどうしても変えることができない。その事実を目の当たりにするたびに、カズはわだかまりや無力さに充たされてしまう。これから目の前で起こる結果をつくってしまった忘れたい過ち。本当はそれを根こそぎ取り除いてしまいたいのだが、見ているしか術がない。カズがひきこもりの息子の未来をどうしても変えてやりたいと必死にあがく姿は、どうにもならないと分かっていても、その強い思いに心を打たれる。

 

「カズ」はなぜもう一度前を向けたのか

そうした辛い過去を振り返る中で「カズ」は、結局この辛い状況を変えるには過去ではなく今に向き合うしかないということに少しずつ気づいていく。もちろん、覚悟を決めて今を受け入れたからといって、今のどうしようもない生活は変わらない。それどころか、このタイムスリップが終わったら、終わりなき日常と闘わなければならない。それでも、「カズ」は「僕たちはここから始めるしかない」と心に決める。

なぜ「カズ」はこのような強い覚悟をもつことができたのか。この物語の設定や、プロットそのものはある意味荒唐無稽で、よくある話かもしれないが、生々しく描かれる目を背けたくなる過去に向き合ったからこその覚悟は、説得力がある。

橋本さんの車はいまも、どこかの街を走っているはずだ 魔法を信じるかい・・・? あなたが魔法を信じるなら、もしかしたら、橋本さんたちに出会うかもしれない サイテーの現実にうんざりして、もう死んだっていいやと思っているとき、不意に目の前にワインカラーのオデッセイが現れたら、それが橋本さんの車だ 乗り込めばいい あなたにとって大切な場所に連れていってもらえばいい



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