最強ヘッジファンド LTCMの興亡

最強ヘッジファンドLTCMの興亡 (日経ビジネス人文庫) When Genius Failed: The Rise and Fall of Long-Term Capital Management

1998年に起きたリーマン・ショック

サブプライム・ローンに端を発したアメリカの金融危機は、ついに大手証券会社の消滅と吸収にまで及んだ。

この脅威は留まるところを知らず、さまざまな市場に影響を及ぼし、脅威が脅威を呼ぶ連鎖が続いている。

ただ、このような事態は、僕らにとって決して全く新しい体験ではない。

そのひとつが1998年のLTCM(Long Term Capital Management)の破綻である。

伝説的なファンド・マネジャーのJM(メリウェザー)をはじめ、

ソロモン・ブラザーズOBを中心に結成されたこのファンドは、

ノーベル賞受賞者2人を擁する天才的理論集団で、まさに錚々たるオールスター軍団だった。

そんな彼らの活躍から崩壊までを、まさにリアルに、詳細な情報に基づいて描いたのが本書である。

読み物として面白いだけでなく、金融危機の背景に潜むリスクの実態を理解する上で非常に参考になる。

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ヘッジファンドのビジネスモデル

そもそも、LTCMのようなヘッジファンドが生業としているビジネスとはどういうものか。

基本的なマネタイズモデルは、想定より割安な債権を見つけ、ロング・ポジション(買い待ち)をとる。

一方で、同時に割高な債権でショート・ポジション(空売り)をとって、市場の変動リスクをヘッジする。

そうやって、市場が適正水準との価格差に気づき、ギャップが収縮するのに賭けるのが基本だ。

ファンドは、このビジネスに資金調達の工夫を掛け合わせることで、収益性を飛躍的に高める。

つまり、レポ・ファイナンス(短期間の有担保貸出)を使い、債権を担保に銀行から借入れ、

それを担保に別の債権を借りること(レバレッジ)で、自己資金に制約されずどんどん投資できるわけだ。

 

LTCMならではの仕掛け

しかし、スプレッドの合間を縫う裁定取引は、あくまでローリスク・ローリターンのビジネスだ。

LTCMの場合、このビジネスモデルに仕掛けをし、ハイリスク・ハイリターンを狙ったところに特徴がある。

その仕掛けとして、異常なまでのレバレッジで取引ボリュームを積み上げ、リターンの絶対額を押し上げた。

これが可能だったのは、彼らが当初、高度な金融工学を武器に毎年40%を超えるリターンをあげたことで、

その実績とメンバーのネームバリューゆえ、金融機関が莫大な融資を担保(ヘアカット)なしで行ったからだ。

更にLTCMは、取引の各段階をひとつずつ別々のブローカーに発注することで、取引の全体像を誰にも

分からないようドレッシングすることで、実体のないブランドに投融資させる状態をつくりあげていった。

 

LTCMから何を学ぶか

もちろん、こんなことをすれば市場が反転したときに大変なことが起きることは誰にでも分かる。

しかし、LTCMはブラック=ショールズ・モデルをはじめとする、自身が作り上げた最先端の

ファイナンス理論に基づき、ギャップは長期的には必ず収縮すると絶対的な自信を持っていた。

1997年から始まったアジア通貨危機や1998年のロシア国債の問題により、

欧米の投資銀行などがポジションを縮小せざるを得なくなる中、

スプレッドの拡大をチャンスと見誤ったLTCMは致命的な状況に陥る。

この失敗ストーリーについて、世の中ではよく「やっぱり投資はほどほどに」的な結論になりやすい。

しかし、そうした分かったような結論を導くだけでは、何も解決したことにならない。

 

再帰的な構造

僕らが理解しなければならない究極の問いは、「市場は合理的か」ということである。

効率的市場仮説から外れた「ジャンプ」は、出会い頭の事故のようなリスクとして無視できるように思える。

しかし、ネットワーク化が進んだ現実では、「ジャンプ」は常態的に起きうると想定すべきだ。

理論的に言えば、ポジション解消時にコピーキャットによって売りが売りを呼び、流動性が枯渇する構造。

よりナラティブに言えば、グローバルにネットワークがつながった社会の中では、

例えばアップルやフェイスブックのようなプラットフォーム的な求心力のあるものが

一人勝ちする現象が起きやすく、実は個々人の合理性の問題を超えて、

彼らの動向を見て世の中が動く「再帰的な構造」になっているということ。

この新しい力学を理解することが、LTCMの失敗から学ぶべき大きなポイントではないか。



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