ウイニング・アグリー 読めばテニスが強くなる|ブラッド・ギルバート

ウイニング・アグリー 読めばテニスが強くなる Winning Ugly

なぜ平凡なギルバートが活躍できたか?

この本はどうすればテニスが強くなるのかについてテーマにした本であるが、実は勝負事に携わるすべての人におすすめしたい。テクニックの良し悪しだけでなく、相手のある心理的なゲームをどう有利に運ぶかという観点で、その他のスポーツやビジネスなどに当てはめて捉え直しても、様々な発見がある1冊だ。

著者のブラッド・ギルバートは、アンドレ・アガシやアンディ・ロディックなどのトッププレーヤーのコーチとして有名であり、80年代のテニスファンには、ジョン・マッケンローやイワン・レンドルと名勝負を繰り広げた選手としても記憶されているだろう。また、2011年には錦織圭のコーチとして活躍していたことが記憶に新しい。

僕はギルバートのプレーをリアルタイムでは見ていないが、後から映像を見る限り、何か武器があるわけでもなく、言ってしまえば”平凡”なプレーに見える。サーブやストロークにビッグショットがあるわけでなく、コートカバー力が秀でているわけでもない。それなのに、マッケンローに「ギルバートなんてたいしたヤツだと思わない」と言われた彼が、なぜ世界ランキング最高4位まで登りつめ、コーチとしても活躍することができたのか。

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頭で戦うテニス

その答えは、プレーはかっこ悪くても頭を使って賢く戦うこと(winning ugly)にある。テクニックが同じでも、考え方・やり方次第で試合を有利に進めることができるというのは、誰もが薄々気付いてはいるはずだ。しかし、ギルバートがすごいのは、それをとことん突き詰めて誰もが使える方法論にまで昇華させてしまったことだ。偉大なるベッカーの倒し方、名演出家コナーズの倒し方、マイケル・チャン型“しこり屋”攻略方法・・・・・ギルバートがトッププレーヤーをタイプ別に攻略するためにどう考えていたかが体系的に紹介されている。

具体的には、試合前のゲームプランの立て方、準備すべきグッズ、ウォーミングアップの工夫から、試合中のキーポイントでの試合運び、相手のプレー別の心理作戦など、あなたのゲームメイクに必要なことは事細かに指導してくれる内容になっている。ウォーミングアップなんて神経質すぎやしないかと思うくらいだが、本書を読めばどれほど大切かがよく分かる。想定できることは徹底的に考え抜くギルバートのしつこさが読んでいて伝わってくる。

断言してもいい。体力的、技術的なトレーニングなどしなくても、今の君の実力で20%は勝率をアップさせられるはずだ。

 

試合の“前”が勝負の分かれ目

では、具体的にどうすれば勝てるのか。本書では、それこそ靴下の準備や試合前日の過ごし方から、読めば具体的なイメージがつくように解説されており、ここで語りつくせない。そこで、ここてでは試合に臨む前に考えておくべき最も基本的な2つの視点を紹介しておきたい。

①試合で何が起こってほしいか考える

「どんな相手と対戦しても自分のテニスをするだけ」ということは、本来してはいけないことだ。相手の弱点は何か。自分のベストショットは何か。この2つを考え合わせると、必ず相手より有利な試合運びができるプレースタイル(勝ちパターン)は何だろうか。例えば、サーブをバックハンドに入れるとレシーブが短くなるので、必ずネットに出て主導権を握る。ラリーでの粘り強さを活かして、ウィナーより深く返すことに注力する。「自分の好きなプレー」ではなく、「相手にとっても苦手な勝ちパターン」を見つけるということだ。

②試合で起こってほしくないことは何か考える

自分から狙っていく「勝ちパターン」を考えたら、次にその裏に潜む「リスク」への対処を考えなければならない。相手が自分の弱点につけ込んできたらどうするか。そうならないためにはどうするか。今度は一転して防御策、代替策の視点で、できることを事前に洗い出しておこう。もちろん、足にマメができたらどうするかや、逆光だったらどうするかなど、試合の相手以外のリスクに対しても細かく気を配ることも忘れてはいけない。

 

ゲームプランのさまざまな効用

ギルバートが教えてくれるのは、要は試合前に台本を決めようということだ。自分がこう動きたいと思っていても、相手のペースが合わず、本番で実力を出せなかったら価値はゼロ。だから、自分がどう動くかだけでなく、相手がこう動くだろうという台本が必要だ。ストーリーや試合設計(ビジネスなら会議設計)とも言う。いろんな仮説やイメージトレーニングを繰り返していくと、ゲームカウント3-1で1ポイント目のサーブはどっちサイドに打つか、2-2の40:30ではネットに出るべきかどうかまで、迷わずに行動できるようになる。その迷いのなさが、テニスを「強く」(≠「うまく」)する力の源泉だと思う。

最後に、僕がゲームプラン巧者だと思うラファエル・ナダルの言葉を紹介したい。彼は、何百もの試合をこなしながら、ターニングポイントとなった局面を将棋や囲碁の棋譜のように記憶しているほど、ゲームプランの持つ意味を理解し、執着している。全仏オープンでV8を成し遂げたナダルの言葉ほど、ゲームプランの価値を表すものはないだろう。

ウィニングショットを打てるチャンスが来る。成功する確率は70%。しかし、あと5回我慢してショットを続ければ、確率は85%に上がる。だから、注意深く、我慢強くチャンスを待つ。焦ってはいけない。



この本についてひとこと