ビジネスを蝕む思考停止ワード44

ビジネスを蝕む 思考停止ワード44 (アスキー新書)

美しく聞こえる言葉ほど、中身はなにもない

「顧客第一」、「グローバル戦略」、「マーケティングの強化」。こうした言葉は、一見否定しようがなく、何となく正論に聞こえるのだが、それってどういうこと?とつっこむと、それ以上、何も答えられないケースも多い。「なんだ、カッコいいことばかり言って、何も言っていないのと同じじゃないか。」そう気づけるならいいが、困ったことに言葉というのはすごくクセモノなのだ。きっとこういうことだろう。あの人が言うなら間違いない。僕だけが知らないのかも。そんな<何となく>のワナがいっぱいあるのだ。

本書では、<何となく>で済まされやすい44の思考停止ワードを取り上げ、僕たちが思考停止しやすいポイントを解説した、面白い着眼点の1冊だ。

思考停止状態でつかった言葉が、悪影響を引き起こす。あるいは、言葉によって思考停止状態が生み出され、望まぬ結果を招く。そんなことが、私たちのまわり、ビジネスの世界では、思った以上に多く起きている。

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あなたもこんな言葉使っていませんか?

思考停止ワードは、日常的な場面でもたくさん使われている。例えば「うちの業界」という言葉。顧客にとって、そんなこと知ったこっちゃない。ビール業界の競合は、プール(涼しさ)かもしれないし、LINE(話す場)かもしれないのだそんな業界にこだわるということで、本当に良かったのだろうか。もちろん、思考停止ワードが使われるのはビジネスに限らない。人権、尊厳、安全、環境、モラル、協力、親切、おもてなし、ブーム・・・。テレビや新聞、週刊誌の言葉は、正直ほぼ思考停止ワードだと思ったほうがいい。

例えば、個人的にすごく気になるのは、「分かりやすい」という言葉だ。もちろん、同じ内容を理解するにも、分かりやすくできるならそれに越したことはない。しかし、分かりやすさを優先するあまり、内容が薄っぺらいことがあまりに多い。そんな分かりやすさで本当に良かったのだろうか。

 

なぜ思考停止ワードは心地いいのか?

とは言いつつも、思考停止ワードには使ってみたくなる不思議な力があるのも確かだ。なぜ僕たちは、安易に思考停止ワードを使ってしまうのだろうか。本書では、44のワードから、思考の傾向として大きく4つの傾向を抽出している。

  • 目的を見失う
  • 横並びになる
  • 過去にとらわれる
  • 私を棚に上げる

要は、思考停止ワードを使うと、自分で考えなくていいからラクなのだ。目的がなければ、何が良くて何が悪いのかを曖昧にしておけるし、横並び、過去実績、世の中一般なら、自分の判断でないから責任がない。心地よさの裏には、誰も言葉に責任を持たないという危険が隠れている。山本七平は、この怖さを有名な『空気の研究』でこう指摘している。

その集団内の「演劇」に支障なき形に改変された情報しか伝えられず、そうしなければ秩序が保てない世界になって行く

 

思考停止にならないためにはどうすればいいか?

本書で提示されている解決策は、それ自体「思考停止」的なのが残念なところだ。4つの傾向に対して、それぞれ警句となるキーワードを意識しようというのだが、これでは思考停止が生まれている構造に乗っかったままでしかない。

僕が解決のきっかけになると思うのは、「抽象のはしご」の降りる訓練をすることだ。「抽象のはしご」というのは、S.I.ハヤカワが意味論の文脈で提唱した概念だが、要は、言葉には抽象のレイヤーから具体のレイヤーまで色んな段階があるということだ。

<抽象>動物→哺乳類→犬→ブルドッグ→5才のオス→ポチ<具体>

発言するときに、意識的にキーワードのレイヤーを1段、2段下げて説明してみる。言いたいことを本当に理解していないと絶対できないから、是非トライしてみてほしい。



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