ZERO to ONE 君はゼロから何を生み出せるか

ゼロ・トゥ・ワン―君はゼロから何を生み出せるか Zero to One: Notes on Startups, or How to Build the Future

起業家のバイブル

2014年のビジネス書・オブ・ザ・イヤーの呼び声高い、起業家のバイブルを紹介しよう。

著者はピーター・ティール。世界最大のオンライン決済システムPayPalの共同創業者であり、Facebook、LinkedIn、SpaceXなど超有名企業へのアーリーインベストメントで著名な投資家だ。Paypalと言えば、日本でも有名なSpaceXのイーロン・マスクをはじめ、YouTubeのチャド・ハーリーら、LinkedInのリード・ホフマン、Yelpのジェレミー・ストップルマンなど、「ペイパルマフィア」と呼ばれるシリアル・アントレプレナーを多数輩出したことでよく知られている。

偶然とは言えない彼らの成功のヒミツはどこに隠されているのか。ティールが母校のスタンフォード大学で行った講義録をまとめた本書には、ゼロから1を生み出す起業家の思考プロセスと、起業にかける熱い思いが込められている。

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イノベーションは枯渇したか

ティールがこの本に込めた一番のメッセージは、「隠れた真実」を見つけようということだ。僕たちは、この成熟した経済環境の中で、全く新しいイノベーションなどないと心のどこかで諦観のようなものを持っていないだろうか。

タイラー・コーエンが『大停滞』で論じた「容易に収穫できる果実」を食べつくしてしまったという技術革新枯渇論は、僕たちの肌感覚ともフィットし、ベストセラーとなった。しかし、それは本当だろうか。ティールはそこを疑ってかかる。

隠れた真実には二種類ある―自然についての隠れた真実と人間についての隠れた真実だ。自然についての隠れた真実はいたるところに存在する。それを見つけるには、物理世界で発見されていないものを探さなければならない。でも、人間についての隠れた真実は違う。自分自身について知らないこともあれば、他人に知られたくなくて隠していることもある。だとすれば、どんな会社を立ち上げるべきかを考える時、問うべき質問は二つ―自然が語らない真実は何か? 人が語らない真実は何か?

 

真実は隠されている

彼は、僕たちが学校教育の中、大企業の中で、無意識に作り上げてしまった思考のカベを様々な事例を引き合いに出しながらぶち壊していく。

彼が壊すのは、「漸進主義」「リスク回避」「現状への満足」「フラット化」の4つのカベだ。これらは、1を100にするための従来型のエリートにとっては守るべきルールであり、特に、2000年のハイテク・バブルの教訓として、インキュベーションの世界においてもリーン・スタートアップが“安全な起業方法”として流行っている。

しかし、ティールはこの発想こそが隠れた真実を見つけるための障害だと批判している。

「リーンであること」は手段であって、目的じゃない。既存のものを少しずつ変えることで目の前のニーズには完璧に応えられても、それではグローバルな拡大は決して実現できない。iPhoneでトイレットペーパーを注文するための最適アプリを作ることはできるだろう。でも、大胆な計画のない単なる反復は、ゼロから1を生み出さない。(中略)スタートアップにおいてはインテリジェント・デザインこそが最適だ。

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隠れた真実のありか

では、隠れた真実はどこにあるのか。もちろん、隠れた真実のありかという答えを望むことはそもそも矛盾した考え方だが、この点に対するティールの議論は、若干、抽象論に留まってしまっているように感じる。しかし、隠れた真実を探すための視点について、こんなヒントを提示している。

秘密を探すべき最良の場所は、ほかに誰も見ていない場所だ。ほとんどの人は教えられた範囲でものごとを考える。学校教育の目的は社会全般に受け入れられた知識を教えることだ。であれば、こう考えるといい──学校では教わらない重要な領域が存在するだろうか?

ティールは、いくつかの例を紹介している。例えば、不動産所有者が空き部屋を個人に紹介できるAirbnb‎(エアビーアンドビー)、ハイヤー型の個人送迎サービスのLyft(リフト)やUber(ウーバー)。こうしたモデルは、もともと既に成熟した業界でいまさらの起業と見られていた。隠れた真実を見つける人は、こうした「いまさら」を疑ってかかるのだ。

 

隠れた真実をつかむには

とは言っても、隠れた真実は隠れているだけの理由がある。つまり、そう簡単にビジネスとして成立しそうにないように見えるから、誰も気づかないのだ。しかし、ティールは、これまでの起業と全く逆の発想をすることで、隠れた真実をビジネスとしてつかむことが可能であることを丁寧に議論していく。

最も大事なことは、「競争」から「独占」に発想を転換することだ。PaypalにしてもFacebookにしても、一番強いものが富の大半を手にする「べき乗」の法則が働きやすい昨今の起業環境においては、「ひとつのもの、ひとつのことが他のすべてに勝る」ということを前提に、ビジネスを作っていくことが何より求められる条件になる。

ティールは、独占を構造的に作るために必要な要件を4つ挙げている。

1.  プロプライエタリ・テクノロジー
2.  ネットワーク効果
3.  規模の経済
4.  ブランディング

この4つの要件にマッチする分かりやすいオポチュニティなどない。だから、「どんなスタートアップも非常に小さな市場から始める」ことが出発点になる。失敗するなら小さすぎて失敗する方がいい。大きな市場より小さな市場の方が支配しやすい。最初の市場が大きすぎるかもしれないと感じたら、間違いなく大きいと思った方がいい。そのくらいフォーカスして独占を作るという発想は、起業家にとって重要なアイディアだ。

 

最後に、ティールが起業家たちに贈るメッセージを紹介しておきたい。

起業は、君が確実にコントロールできる、何よりも大きな試みだ。起業家は人生の手綱を握るだけでなく、小さくても大切な世界の一部を支配することができる。それは、「偶然」という不公平な暴君を拒絶することから始まる。人生は宝クジじゃない。



この本についてひとこと